釣りの思い出


 小さい頃、父親は渓流釣りをしていた。餌釣りだった。ヤマメとかイワナとかを釣ってきていた気がする。休みの日の昼間に気がつくと、父親は釣りから帰ってきていた。父の仕事は不定期だったので、仕事に行っているのか釣りに行っているのか、家に帰ってからでないとわからなかった。父親は釣りから帰ると緑のデカいリュックサックを下ろす。当時の横長タイプのリュックサックだ。とても格好良く、憧れていた。リュックサックには、ナタやら軍手やらビニール袋やら新聞紙が入っていた。丸まったアルミホイルも入っていた。母親が作ったおにぎりが入っていたのだろう。山菜を採ってくる事もあった。父は家に帰ると、広げた新聞紙に魚を並べて写真を撮っていた。魚を食べたのかは不思議と全く覚えていない。

 何年生の頃か、小学生の頃。一度だけ父親に渓流釣りに連れて行ってもらった事がある。かなり山の中で、崖のようなところに車を停めて、渓流に降りた気がする。自分で釣った記憶はなく、たぶん釣るのを見ていたんだと思う。石をひっくり返して虫を採ったのは覚えている。しばらく釣って、父親は小さなヤマメを釣りあげた。釣れた瞬間も思い出せないし、記憶にはない。子供ながらにも小さいヤマメで、今なら絶対にリリースサイズだと思う。当時はそんな考えはなかっただろう。
 その日の釣果はその一匹だけ。父親は車からイワタニのガスコンロを出して、たしかサッポロ一番塩ラーメンを作ってくれた。小さなヤマメは焼いたのか蒸したのか覚えていないけど2人で食べた。ラーメンもヤマメもすごく美味しかった。あまり父親とどこかに出掛けた記憶は無いが、忘れられない思い出だ。それが一番最初の釣りの思い出だ。

 中学生くらいになって、押し入れから父親の緑のリュックサックが出てきた。思ったより小さなよれたリュックサックだった。父親が釣りをしていたのは自分が小さな頃だけ。そのあとはゴルフをしていた事も家庭菜園をしていた事もあったが、家を建ててからは全く趣味はなし。歳をとってローンが終わり、やっと趣味ができ、毎日自転車に乗っている。釣りの話をしても、全く興味は無さそうだ。鱒をあげると喜ぶけども。

父親とはケンカばかりだったし、今も細々と口うるさい。でも、何かに悩んだときは電話しているし、やっぱり尊敬している。

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