商標法等の重要な改正【2024/4/10追記あり】

概要

弁理士試験では、その試験日時点での現行法令の知識が問われる。弁理士登録をすれば、それ以降の法改正等については、研修でキャッチアップでき(させられ)る。他方で、実務では、過去の法令の知識が必要となる場面が多々ある。にもかかわらず、過去の法令について教わる機会は多くないと思われる。

商標実務上、典型的には、更新業務で過去の登録を見ることが多い。その内容について依頼者から問合せを受けた際、過去の法令を知らなければ正確に回答できないことも多い。また、事件を検討する際には、いつの時点の法令が適用されるのか(現行法令が適用されるという前提で良いのか)を意識しなければならない。裁判例などを読む際にも、その時点の法令がどのようなものだったかを知らなければ、誤って理解してしまいかねない。

最低でも過去10~20年分くらいは、どのような改正等があったか、また、改正法の経過措置がどのように規定されていたかを、予備知識として知っておいた方が良い。資料は、特許庁のウェブサイトでまとめて公開されている。

本稿では、筆者の経験上、頻繁に参照する法令の改正を概観する。詳細は、特許庁が刊行した各改正に関する解説書を参照されたい。施行日は、規定ごとに段階的に定められる場合もあるが、原則的な日付のみを挙げる。

また、いわゆる継続的使用権についても言及する。継続的使用権は、侵害事件における抗弁として重要であるにもかかわらず、現行法の法文集には掲載されず(改正法の経過措置として定められるため)、弁理士試験でも問われず、見落とされがちであるように思われるからである。経過措置は、e-Govで見られる。


平成4(1992)年4月1日から:サービスマーク・国際分類

平成3(1991)年の法改正によって、役務商標の登録が認められるようになった。また、このときから、国際分類への対応も始まった。

継続的使用権は、次のとおり(引用文中の[]内の記述は、筆者による。)。

この法律の施行の日から六月を経過する[平成4(1992)年10月1日午前0時]前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の登録商標(この法律の施行後の商標登録出願に係るものを含む。)に係る指定役務又は指定商品若しくは指定役務に類似する役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその役務についてその商標の使用をする場合は、この法律の施行の日から六月を経過する際現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内において、その役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

平成3年5月2日法律第65号の附則3条1項

国際分類への対応との関係では、指定商品の書換制度が重要だった。平成4(1992)年3月31日までは、日本分類による商品の指定が行われていた。日本分類を国際分類へと書き換えるための手続が書換制度である。現在では、当該手続は終了している。ただし、古い登録で、指定商品が不自然に多数の区分にまたがって指定されているものが散見される。これは、書換制度が原因の場合がある。管理コストに鑑みて、適宜、更新時に区分の数を減らすことを検討すべきであろう。

平成9(1997)年4月1日から:立体商標

平成8(1996)年の法改正で、立体商標の登録が認められるようになった。継続的使用権は、次のとおり。

この法律の施行前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の登録商標(この法律の施行後の商標登録出願に係るものを含む。)に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標(第一条の規定による改正後の商標法(以下「新商標法」という。)第五条第二項に規定する立体商標に限る。以下この条において同じ。)の使用をする場合は、この法律の施行の際現にその商標の使用をしてその商品又は役務に係る業務を行っている範囲内において、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

平成8年6月12日法律第68号の附則2条1項

平成11(1999)年1月1日から:商標登録証の交付

特許証などとは異なり、現行法(昭和34年法)下で商標登録証が交付されるようになったのは、平成10(1998)年の法改正による。依頼者から、古い商標登録証が見当たらないので写しを送ってほしいなどといった問合せを受けることがあるかもしれないが、そもそも商標登録証が発行されていなかった時代のものの可能性がある。

平成14(2002)年1月1日から:分類が42から45へ

それまで42類までしかなかった分類が、平成13(2001)年の商標法施行令改正によって、45類まで増えた(42類が4つの新分類に分割された。)。現在は43類~45類に分類されている役務でも、過去の登録では42類の役務として登録されているのはこのためである。

平成19(2007)年4月1日から:小売等役務商標

平成18(2006)年の法改正で、いわゆる小売等役務商標の登録が認められるようになった。継続的使用権は、次のとおり。

この法律の施行前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の商標登録に係る指定役務又はこれに類似する役務(小売等役務に限る。)についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその役務についてその商標の使用をする場合は、この法律の施行の際現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内において、その役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

平成18年6月7日法律第55号の附則6条1項

平成27(2015)年4月1日から:新しいタイプの商標

平成26(2014)年の法改正によって、いわゆる新しいタイプの商標の登録が認められるようになった。

なお、「新しいタイプの商標」という呼び方は、わが国特有のものと思われる。国際的には、立体商標とあわせて「非伝統的商標」(「non-traditional trademark」又は「non-conventional trademark」)と呼ぶのが一般的と思われる。

継続的使用権は、次のとおり。

この法律の施行前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の登録商標(この法律の施行後の商標登録出願に係るものを含む。)に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標(新商標法第五条第二項第一号、第三号又は第四号に掲げるものに限る。以下第五項までにおいて同じ。)の使用をする場合は、この法律の施行の際現にその商標の使用をしてその商品又は役務に係る業務を行っている範囲内において、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

平成26年5月14日法律第36号の附則5条3項

平成30(2018)年4月2日から:3条1項柱書の運用変更

『商標審査便覧』41.100.03の改訂により、3条1項柱書の適用可否の運用について、類似群コード数の数え方及び最大類似群コード数が変更された。したがって、前述小売等役務商標の保護開始からそれまでに審査された商標の登録に係る指定商品・役務の範囲が狭いのは、当該期間の運用が原因の場合がある

令和6(2024)年4月1日から:「他人の氏名」(4条1項8号)を含む商標の登録要件の緩和

氏名を含む商標の登録が、従前に比べて、認められやすくなった。継続的使用権は、次のとおり。

施行日前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の登録商標(この法律の施行後の商標登録出願に係るものを含む。)に係る商標法第四条第一項第十一号に規定する指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその登録商標又はこれに類似する商標であって他人の氏名を含むものの使用をしていた者が、施行日以後も継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、この法律の施行の際現にその商標の使用をしてその商品又は役務に係る業務を行っている範囲内において、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

令和5年6月14日法律第51号の附則5条2項

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