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275. カナダのトルドー首相が先日(2021年10月5日)のツイートで性的マイノリティを表す言葉を「2SLGBTQQIA+ people」と表記して話題になりました。最初の「2S」って何ですか?

先に「LGBTQQIA+」についてですが、これは私が一連の記事で扱ってきたレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、クエスチョニング、インターセックス、アセクシュアルといった人々を表す言葉です。問題の「2S」は "Two-spirit"の省略形です。ではこの「トゥースピリット」とは何か。

アメリカ大陸にはもともと先住民族がいました。そしてその文化の中には、女性は女性というカテゴリーに属するものだ、男性は男性というカテゴリーに属するものだというような固定した考え方はありませんでした。もちろん1つのカテゴリーに属することに違和感を持たない人もいたでしょう。しかし、自分は両方のカテゴリーに属するんだ、体は1つのカテゴリーに入るけれども、心は別のカテゴリーに属すると考える人たちもいました。先住民の人たちはそういった人たちを自分たちのコミュニティから排除することなく、大切に扱ってきたのです。次の記事でお話しますが、外国からやってきて植民地を作っていったヨーロッパ・イギリスの人たちはこういった風習を奇妙なものだと捉え、「ベルダーシュ(berdache)」と呼んで蔑みました。

これに対して、1990年にカナダのマニトバ州ウィニペグで開かれた第3回先住民/ファーストネイション・ゲイ・レズビアン会議で、先住民で非異性愛である人たちを非先住民のゲイやレズビアンと区別するために用いられたのがこの言葉の始まりだとされています。日本でも今ではLGBTという言い方が当たり前になっていますが、北アメリカの先住民はその「外国からやってきた人たちがもたらした概念や人々のグループ化」をあえて拒否し、自分たちの文化を表す言葉を選んだのです。先住民以外の文化の人たちからは、「なんだ、それって自分たちが使っているLGBT+のことじゃないか」と思われるかもしれませんが、それは違います。まず、「トゥースピリット」の人たちはそのコミュニティの中で異性の服装を身にまとい異性のような行動をする男性・女性、第3や第4のジェンダーとして周囲から認められているというところが大きく異なります。先住民の文化の中では(西洋で言う)LGBTを偏見の目で見たり、差別するということがもともとないのです。1つ、気をつけなければならないのは、じゃあ先住民でゲイならばtwo-spirit と言えるのかという話です。そういう人は two-spiritとは呼ばないとされています。two-spirit の人はその先住民のコミュニティで特別な儀式に携わったり一定の役割を担っている人だとされているからです。


参考資料

ジョー・イーディー 2006 『セクシュアリティ基本用語事典』明石書店

Wikipedia  "Two-spirit"

Youtube  "What Does "Two-Spirit" Mean? | InQueery | them."

画像:Photo by Boston Public Library on Unsplash (画像はtwo-spiritの方ではありません)