見出し画像

元指導員のリアル教習所#1    「心構え」

 教習所指導員として16年にしてこの仕事を離れることとなり、これまでの教習の中で感じ取った運転上達のコツと、教習のポイントなどを足跡として残しておきたいと思います。これはあくまでも教習に携わってきた中での経験則であり、正式な教習要領や運転教本とはずれた考え方もあるかと思いますが、一つの考え方として受け取ってほしいと思います。その中で何かひとつでも今必死に頑張っている教習生が楽になれる要素があれば幸いです。

 教習に携わってきて上手く伝えられたという時もあれば、僕が担当してごめんなさいと思うような時間もたくさんありました。幸いなことに上手くできなかったことを「教習生が悪い」と思えなかった性格には心からよかったと思えます。それだけに、「いかに上手くできるか」「どう伝えるか」については常に観察と研究を重ねた自負があります。

「運転=スポーツ」

 まずは教習に向かう心構えのお話し。運転は勉強ではなくスポーツです。
つまり頭で覚えるものではなく、体が動くように体得するものだという事です。 

 何事も初めてのことに挑戦するときは、初めの心構え、意気込みが大事ですよね。教習が順調に進むかどうかもこの心構えがかなり重要です。
 初めての技能教習に挑むにあたり「よし!頑張ってポイントを覚えるぞ!」という意気込みを持つ方はかなり多いものです。特にとても真面目な方、受験勉強に熱心に取り組んだ方などに多いと思いました。正直、せっかく意気込んでもこれは逆効果になってしまうんですよね。自分で運転を難しくしてしまうパターンです。

 例えば、サッカーが上手くなりたい時、実際にグラウンドなどでボールを蹴ってシュートしたりパスしたりが当たり前ですよね。机に座って「まずはあらゆる場面のボールに当たるときの足の角度を暗記しよう」とはいかないわけです。逆に「オフサイドってどういうこと?」というルールを覚えるためにはルールブックを熟読するでいいでしょう。

 このように「動作」を習得することと、「知識」を習得することは大きな違いがあります。
 ・技能教習=動作の習得=運動
 ・学科教習=知識の習得=勉強
 取り組むときの心構えで、その後の上達は大きく変わります。

 実際の教習にあてはめると…例えば「このカーブはどの位ハンドルを回すか覚えるぞ!」「このカーブはどのタイミングでハンドルを回し始めるか覚えるぞ!」これは全く必要のない、意味のない努力という事になります。これはお勉強。実際の運転でも「このカーブでのハンドル量はこのぐらいだな」と考えることは全くないと言ってもいいでしょう。
 ただただ自分の進むべき方向、通るべき道だけに進めることだけを意識する。これが正解。究極、それさえ安全に出来ていればどんなことをしていても当たりです。逆にどれだけ必死に考えてやっても行きたい方に進んでなければ全く意味はありません。とても感覚的です。
 この取り組みの方向性が正しく向いただけでも上達の速度は飛躍的に向上します。

運転操作はだいたいで

 それでは、あまりにもわかりにくく感じてしまうかもしれませんが、わかりにくい位でいいと思います。むしろ「必ずこうすれば上手くいく!」と覚えようとすることが危ないです。なぜなら車の運転自体が寸分狂わずできるものではないからです。AIが行う自動運転であればそれも可能かもしれませんが、人間には何回やっても全く同じタイミング、操作量はほぼ不可能といっていいでしょう。
 その代わり道路には「許容範囲」があります。「ここだけ走れ」でなく「この範囲で走れ」というのが現実的です。ということは運転手の操作にも十分な許容範囲があるという事です。そう考えると気持ちも少しは楽になるのではないでしょうか。

 ただし、スポーツの上達には反復練習は不可欠です。指導員の劇的なひとことで今すぐ上達することは極々稀です。何度も何度も繰り返して、何度も失敗して、そのうち成功して、成功率が上がって徐々に上達するものです。「感覚を磨く」という練習の方向性をしっかり定めて根気強くがんばって下さい。必ず気持ちよく運転できるようになりますから!
 指導員の方々も広い心で見守ってあげてくださいね。

 私自身、教習を通じて物事に取り組むときに「どういう方向性でがんばるか」という事はとても大事だということに気づかされました。それがズレてしまえば、せっかくの努力が無駄になるということが起こり得ます。特に教習所ではあるあるともいえる苦戦理由ですのでお気を付けください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?