「イシューからはじめよ」を読んで

何年か前に一度読んだことがあり、今回再読。
10年前に書かれた本であるものの、仕事を進める上での本質的な思考方法が記載された名著。
日本人にありがちな「時間をかければ、とにかく総花的にやれば、アウトプットは良くなる」という、著者の言う「犬の道」の否定については、非常に共感できる内容である。
この本を読んでからは、手を動かす前に「どこに答えを出すべきなんだろうか?」といったことを最初に仮説として考えるようなクセがつき、業務の生産性は上がったように感じている。

ここからは私が感じた事例だが、
働き方改革に携わるようになって感じたこと。
よく聞くセリフが、
「うちには最新のITツールがないから、業務で使うシステムがしょぼいから、改革が進まない」。
個人的には、
「じゃあ、そのツールが導入されたら、改革は劇的に進むの?それは本質的なイシューなの?」
と感じている。
社内の改革が進まないのは、本当にそうなのだろうか?
言い方は悪いが、小手先のツールやシステムを導入したから、本質的に全て解決するのだろうか?
ツール以前に、それらを使う従業員達の意識を変える(例えば、「犬の道」を突き進む文化を変えるなど)ことが必要なのではないだろうか。

なんてことを思い出す本だった。

以下、読書メモである。

• イシュー(何について答えを出すべきか、をブレることなく持ち続けること)こそが知的生産性の高さにおけるすべてのカギである。
(ツールやテクニックといったノウハウを知っているだけでは不十分)
• 仕事において悩むというのはムダな行為。悩むというのは「答えがない」前提のものであり、悩むよりは「考える」ことが必要。

序章 この本の考え方 脱「犬の道」
• 常識を捨てる(以下が本書の基本)
①「問題を解く」より「問題を見極める」
②「解の質を上げる」より「イシューの質を上げる」
③「知れば知るほど知恵が沸く」より「知りすぎると馬鹿になる」
④「1つひとつを速くやる」より「やることを削る」
⑤「数字の桁数にこだわる」より「答えが出せるかにこだわる」
• バリューの本質とは、イシュー度と解の質の2軸で決まる。
物事の本質的な課題に気づかず、ただ解の質を磨きこむことだけに特化していると、それは顧客にとって実は価値のない仕事になりかねない。
• 一心不乱に大量のシゴトをしてバリューのあるシゴトにたどり着く方法は犬の道。
• まずは、自分が思いついた問題の中で、「本当に今答えを出す価値のあるものは何か」を考え、10分の1くらいに絞る必要がある。また、その中でもイシュー度の高い問題から手をつける。(ただし、「解きやすさ」「取り組みやすさ」といった要因に惑わされてはいけない)
• 限界まで働く、残業時間、といった概念は時間給をベースにしたレイバラーの考え方である。一方でプロフェッショナルは、時間ではなくその存在がもたらす価値の大きさで変わるものである。
• 脳は、自分自身が「意味がある」と思ったことしか認知できない。「意味がある」と思うかどうかは、「それが意味をもつ場面にどれだけ遭遇するか」によって決まる。
(生まれたばかりの猫を縦縞しかない空間で育てると、横縞が見えず、テーブルから落ちてしまう、という実験)

第1章 イシュードリブン 「解く」前に「見極める」
• 問題はまず解くものと考えがちだが、まずすべきは「本当に解くべき問題」、イシューを見極めること。「これは何のために答えを出すものなのか」を明確にすべき。
• 最初に出したイシューをチームで共有し、常に意識させることで、チームの生産性を高い状態で保つことができる。
• 相談する相手を持つと、「これは本当にインパクトがあるのか?」を客観的な立場から検証してもらえる。

仮説を立てる
• やってみないとイシューが見えてこない、というスタンスでは時間はいくらあっても足りない。
• スタンスを取ることが重要。スタンスを取れば、
①イシューに答えを出す(仮説を立てる)ことができる
②必要な情報・分析すべきことがわかる
③分析結果の解釈が明確になる

言葉で表現する
• まずは、イシューが見えて、それに対する仮説を立てたら、それを言葉に落として全員に共有すること。
• 言葉で表現するときのポイントは、
①主語と動詞を入れることで曖昧さを防ぐ
②「Why」より「Where(どちら、どこを目指す)」「What(何を行う、何を避ける)」「How(どう行う、どう進める)」を明確にする
③比較表現を入れることで、他と対比して何に答えを出すのかを明確にする

よいイシューの3条件
①本質的な選択肢である(イシューの答えが出ると、先の検討方向性に大きく影響がある)
 ・イシューらしいものが見えた時に、「これは今答えを出すべきものなのか?」そもそもに立ち返る癖をつける
 ・イシューは主語となる企業によって異なる。イシューが見えてきた段階で、イシューの主語を入れ替えた時に、「どの企業にも当てはまる」ものだと、まだイシューが浅い。
②深い仮説がある
 ・仮説を深くするためには、「常識を否定する」こと、「新しい構造で説明する」ことが必要。
 ・常識を否定する仮説であれば、それは極めてインパクトの大きなものである。
③答えが出せる
・答えを出す手法がないイシューはNG。答えを出せる範囲で最もインパクトのある問いであるべき。

イシュー特定のための情報収集
• イシュー特定のための大枠の材料を短時間で見つけることが大事(細かい数字よりも全体としての流れや構造に着目すること)

コツ①:1次情報に触れる
誰のフィルターもかかっていない情報を現場で仕入れる。現場の人の経験から生まれた知恵や、問題意識を聞いておくこと。

コツ②:基本情報をスキャンする
1次情報をある程度の塊で、MECEに調べること。決め打ちせず幅広く行うこと。
(競争関係、新規参入、代替品、事業の上流・下流、技術・イノベーション、法制・規制など)
この際、抑えるのは、以下3つ。
・数字:規模感、シェア、利益率など基本情報。
・問題意識:歴史的背景を踏まえた業界の常識、一般的な通念やこれまでの検討とその結果など。
・フレームワーク:これまで課題がどのように整理されてきたかを明確にするため、検討している問題が既存の枠組みでどう位置付けられ、整理されているかを理解する。

コツ③:集め過ぎない、知りすぎない
情報収集にかける時間と得られる情報量の相関は一定量以上で頭打ちになることを理解すること。また、知り過ぎると「自分ならではの視点」がゼロに近づく(知識の増大は必ずしも知恵の増大ではない)。知り過ぎたバカにならないように気をつけること。

イシュー特定のための5つのアプローチ
①変数を削る
 あまりにも要素が多く、すべての相関が取りにくい場合などに実施。
 特定の分野に絞って仮説を立てたり、グルーピングすることでイシューをはっきりさせる。その際には、一次情報が役に立つことが多い。
②視覚化する
 人間は目で考える生き物である(脳科学的に)。そのため、図式化・絵・グラフにすることでイシューが見えやすくなることがある。
③最終形から辿る
 手っ取り早く「最後に何が欲しいのか」ということから考えることも大事。
④So Whatを繰り返す
 なぜなぜを繰り返すことで、より深い本質的な問い(イシュー)に磨き込む。
⑤極端な事例を考える
 例えば、一部の重要な変数を極端な値に振ってみた時にどのようになるのかを考えてみる。そこから、どの要素の動きがカギになるのかを見極める。
(例:市場規模を10倍にする、市場シェアを10倍にする、など)

第2章 仮説ドリブン① イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
• イシューを見極めたとしても、「解の質」をあげなければ本質的に良い仕事ができるとは言えない。そのためのストーリーラインと絵コンテが必要。

• イシューを起点にしてストーリーを組み立てることで生産性が劇的に上がる。
「このイシューが正しいとすると、どんな論理と分析によって検証できるか」というように、最終形から前倒しで考えていく。

ステップ1 イシューの分解
• ダブりもモレもなく砕くこと、本質的に意味のある固まりで砕くことが大事。
• イシューを分解する上で典型的な型は、Where(どのような領域)、What(具体的にどのような勝ちパターンを築くべきか)、 How(具体的な取り組みをどのように実現するか、の3つである。
• ただし、どうしても型がない場合は、最後に何が欲しいのか、出口から考えることも必要。
• イシューをうまく分解することで、課題の全体像が見えやすくなり、サブイシューの中から取り組む優先順位をつけやすくなる。
• 分解したサブイシューそれぞれに仮説を立てること。その際、見立てがなかった場合は強引にでもスタンスを取ること。
• イシューをMECEに分解する際の代表的なフレームワークは、バリューチェーンごと、3C、などが典型例であるが、あまり無理矢理フレームワークに当てはめると本質的なポイントを失う可能性もあるので注意。

ステップ2 ストーリーラインを組み立てる
• 典型的なストーリーラインは以下の通り。
必要な問題意識、前提知識の共有

カギとなるイシュー・サブイシューの明確化

各サブイシューの検討結果

総合した意味合いの整理
• ストーリーラインは、できる限り前倒しで作るべきだが、検討が進む中で柔軟に書き換えて磨いていくもの。
• ストーリーラインの役割は、プロジェクトの最初から最後まで重要。
プロジェクトの立ち上げ段階では、何が見極めどころか(サブイシュー)をチーム全体に明確化するもの。目的意識の統一。
分析段階では、イシューに対する仮説検証がどこまで進んでいるのか、ストーリーラインを見ればすぐにわかるようになる。分析結果に応じて肉付け、刷新していくこと。
まとめ段階では、プレゼンに向けた言葉や論理の流れを検証するために使う。
• ストーリーラインの構成における型は、以下2点。
Whyの並び立て(並列)。「○○をすべきである。その理由は、第1に〜、第2に〜、第3に〜」といった話し方となる。ダブりとモレがないように注意。
空・雨・傘。「○が問題だ(空)→ここを見極める必要がある(雨)→こうしよう(傘)。日常会話のロジックと同じ。

第3章 仮説ドリブン② ストーリーを絵コンテにする
• 分析結果が出ないと分析イメージ(グラフや図表)も考えようがない、というのはNG。
• 自分ならどういう分析結果が出れば納得するか、を想定しそこから考えること。
• 絵コンテ作りの心構えは、大胆に思い切って書くこと。どんなデータが取れそうか、ではなく、どんな分析結果が欲しいのか、を起点に分析イメージを作っていく。

絵コンテ作りのステップ
ステップ1:軸の整理
• 分析の本質とは、「比較すること」。分析においては適切な「比較の軸」がカギとなる。
• 定量分析の3つの型は、比較(棒グラフ)、構成(円グラフ)、変化(折れ線グラフ)である。
• 分析の設計は、「原因側(例:ラーメンを食べる頻度)」と「結果側(例:体脂肪率、BMI)」の2軸から構成される。
• 分析の軸を出すためには、比較するための条件を思いつく限り書き出していく。

ステップ2:イメージを具体化する
• まずは実際にチャートのイメージを描くと、どのくらいの精度のデータが必要か、何と何の比較がカギになるのかがはっきりする。
• また、イメージを描く上で、「比較による結果の違い」が明確に表現できるかを検証する。

ステップ3:方法を明示する
• どのような調査を行って、ステップ2までで必要となったデータを取るのかを明示する。
• ここでは、知識や経験が必要な場合があるため、相談役となる人間に頼ることも必要。


第4章 アウトプットドリブン 実際の分析を進める
• 分析や検証は必ず、最終的な結論や話の骨格に大きな影響力を持つ部分から始めること。最初に「本当にそれが検証できるのか」の答えを出してしまうこと。
• ただし、「答えありき」で分析や検証を行い、都合の良いところだけを集めて来ないように注意すること。
• また、トラブル対策が重要。重要な論拠には必ずヘッジをかけるようにし、一つや二つが崩れても何とか全体のイシューを検証できるようにしておくこと。
トラブル①:欲しい数字や証明が出ない
→直接は算出できない数字を出すことは可能。
 そのためには
 ・構造化して推定する。いわゆるフェルミ推定のように、出したい数字を分解し、そこから推定していくやり方。
 ・足で稼ぐ。ある程度の粒度の情報であれば、直接出向いて調べてみる。
トラブル②:自分の知識や技では埒が明かない
→簡単なのは人に聞きまくること、他力を活用すること。ネットワークはスキルの一部。
もし人に尋ねようもない場合、期限を切ってさっさとその分析手法は諦めること。
• バリューを生み出す人の資質は、「持っている手札の数」「自分の技となっている手法の豊かさ」である。
• 回転数とスピードを重視し、「停滞しない」ことを意識する。停滞の要因は、1つ1つを丁寧にやり過ぎること(6割程度で全体を分析し、それを繰り返す方が圧倒的に早い)。
• 加えて、「答えを出せるかどうか」を意識すること。
• 完成度よりも回転数、エレガントよりもスピード。受け手にとって価値のあるアウトプット。

第5章 メッセージドリブン 「伝えるもの」をまとめる
• まとめの作業に取り掛かる前に「どのような状態になったらこのプロジェクトは終わるのか」というイメージを描く
• 聞き手と話し手の知識ギャップを埋め、聴き終わったときに受け手が語り手と同じように問題意識を持ち、納得し、興奮している状態を目指す。(そして行動してもらう)
• 複雑さはいらない、意識が散るもの、曖昧なものは全て排除する。

プロセス① 論理構造を確認する
• これまでのイシュー、それを支えるサブイシューの流れを確認し、全体の構造・メッセージの流れに問題がないか確認する。
プロセス② 流れを磨く
• チャートをそろえ、話の順番やメッセージのメリハリを修正。流れが悪いところや締まりが悪いところを把握し修正。
• 実際に説明をメンバーに見てもらいながら、修正。
プロセス③ エレベーターテストに備える
• 20〜30秒で自分のプロジェクトの概要を説明できるか考えてみる。

上記①〜③でストーリーラインを磨いたら、チャートを磨き込んでいく。
優れたチャートの条件は、
• イシューに沿ったメッセージがある(メッセージのはっきりしないチャートは必要ない)
• (サポート部分の)タテとヨコの広がりに意味がある
• サポートがメッセージを支えている
コツ① 1チャート1メッセージを徹底する
• 1つのメッセージに絞り、それが正しくサブイシューに繋がっていることを確認する。
コツ② タテとヨコの比較軸を磨く
• カメラを買うときに「傷なしで値頃」と言っても電気系に異常があれば購入しない。と言ったように、何かを評価するときに必要な要素全てを含んで比較しているか確認(ヨコ、軸の選択をフェアにする)
• 軸の順序を、プロセス順にする、などわかりやすさを追求する。
コツ③ メッセージと分析表現を揃える
• 数字の見せ方を、単なる実数ではなく「○倍」といった表現にするなど、インパクトのある言葉選び。

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