見出し画像

豪州から:水素は再エネ産業の救世主ではない

日豪、大規模水素サプライチェーンの実証事業

日本と豪州の間では、ビクトリア州の褐炭を利用して水素を製造し、それを液化して液体水素として、専用特殊タンカーで日本(神戸港)まで輸送してくるとういうプロジェクトが進行しています。

世界初、液化水素運搬船が進水 | プレスリリース | NEDO

未来の水素社会の実現に向けた大きな一歩を踏み出したとして、政府や産業界では期待をもって、その進捗を見守っているようです。実用化の課題として最終的にはコストが挙げられており、当面の目標値として、2030年までに 30円/Nm3、普及させるためには15~20円/Nm3が必要だと言われます。
なかなか、厳しい数字だと思います。

一方、豪州側でも、色々あるようです。

ここでは、連邦議会議員に選出されたボイス氏の話です。政府が効率的に水素を利用するのはまだ先の話だとし、報道されてこなかった「大きな問題や課題」があると警告を発しました。
 
彼の出身は、クイーンズランド州中央部(重炭鉱地域)で、選挙区内のグラッドストーン市がグリーン水素産業の主要拠点になるとのこと。日豪間で協働作業をしているビクトリア州(州都:メルボルン)ではないようです。
 
水素は救世主、将来のエネルギー需要のために不可欠として宣伝されている。水素は非常に危険、可燃性であり、工業的に大量の水素を製造、貯蔵、輸送、使用することは色々なリスクを伴う」と。
 
彼は、1986年のチャレンジャー宇宙シャトル爆発事故、2011年の福島原発事故、最近のカライドC石炭火力発電機の爆発事故など、水素利用がうまくいかなかったいくつかの大きな事例を指摘した。
 
「水素は採掘できないので、作るしかない。水の電気分解によって、水の分子を破壊し、水素と酸素を作ることができる。このプロセスに必要な再生可能エネルギーの量が膨大であることを指摘した」。

水素はネット・ゼロの貯蔵問題を解決する万能薬?

水素の製造は、ネット・ゼロと石炭火力発電からの脱却を推進する上で、重要なパズルのピースとなる。自然エネルギーを利用したエネルギー網を実現するためには、膨大な量の蓄電池が必要であり、そのために何十億ドルもの資金と材料が必要となる。
 
現在、再エネで余った電力を蓄えるには、巨大なリチウム電池が使われているが、風が吹いていないとき、太陽が照っていないとき、特に夜間の電力使用量のピーク時には、この蓄電池を利用することが必要である。
 
例えば、世界最大の蓄電池システムであるフロリダ州のマナティ蓄電センターは、一度に約32万9000世帯に2時間分の電力しか供給できない。
 
揚水発電のような再エネシステムの場合、貯蔵要素としては、ダムシステムを構築して大量の水を貯め、それを再びタービンで汲み上げて発電するという単純なものだが、すべての国や地域が水力を利用するのに適した環境条件に恵まれているわけではない
 
そこで各国政府は、別の解決策を見出すために、水素技術に何十億ドルも投資している。余剰電力でバッテリーを充電する代わりに、電解槽(エネルギー集約型プロセス)に電力を供給し、水素を発生させて貯水池を満たし、新しいエネルギー源や合成燃料として利用するのである。
 
しかし、ネットゼロを推進する多くの新技術と同様、この技術もまだ開発の初期段階にある。
 
GPAエンジニアリング社の技術者は、「主な問題は、水素が非常に低密度であること。水素のエネルギー密度はメタンの3分の1であり、圧縮するために多くのエネルギーが必要」と。
 
また、貯蔵容器の材質やサイクル時の疲労に耐える能力にも影響する。大きなボトルを持っていて、それを満タンにして空にし、満タンにして空にすると、ボトルはおそらく天然ガスの10倍早く故障する」と。
 
往復の効率も重要、電気から水素をつくるプロセスの効率は最大80%、すでに20%のエネルギーが失われている。電気に戻せば、さらに多くのエネルギーを失うことになる。

必要なのは「巨大な」投資規模

工業規模の水素製造を支える電解槽にどれだけの再エネが必要かなのか?

「クイーンズランド州のクーパース・ギャップ風力発電所は、豪州最大の風力発電所、発電能力は430メガワット1年間に換算すると、約3万トンの水素を製造できる電力がある。これは産業用としては非常に少ない量」だ。
 
「これを100倍すると、300万トンの水素がつくれることになり、工業用水素水量に匹敵する量になります」。
 
そこには現在123基の風力タービンがあり、これを100倍にすると12,300基の風力タービンとなる。当初の風力発電所の建設費は8億5,000万ドルだったが、実質的な100倍の規模になると1,000億ドル以上の費用がかかる。
 
大型風力発電機の設置面積は約25ヘクタール。つまり、30kmの間に、数百メートルおきに風力発電機が設置されることになる。苦情に対応するために、スタッフを増やさなければならない。
 
また、電気分解機で1kgの水素を作るには約10リットルの水が必要で、現在、政府には大量の水を貯蔵する計画はないと述べた。
 
海水淡水化プラントを建設する案もあるが、より多くのエネルギーを必要とするうえ、生成されるかん水の処理に問題がある。塩水を海に汲み上げると、グレートバリアリーフに壊滅的な打撃を与えることになる。
 
「あの地で水素産業が発展することは間違いないだろうが、これを巨大な産業規模で行うための実用的、経済的な現実は調査も理解もされていない」。
 
豪州労働党は、2030年までに26〜28%という前政権の目標を43%に引き上げている。
 
アルバネーゼ政権は、豪州電力網の80%を再エネで賄うことを公約に掲げ、発電方法の見直しも推進する予定だ。現在、電力網の64%以上が石炭火力発電で賄われている
 
気候変動相は、「2030年まであと89カ月、この目標を達成するのに長い時間はない。私たちはあまりにも長い間待っていたのだ」と。

所感

日豪の間で進められている国際間プロジェクト、うまく行って欲しいと思っていますが、いくつかの懸念はあります。

ライフサイクル(褐炭の採掘、ガス化、シフト反応による水素製造、CO2の捕獲・回収、水素の液化処理、液水の輸送、神戸港での気化処理など、日本国内輸送、ユーザーでの利用など)を見通した場合の懸念として、エネルギー効率、各サイクルで要するコスト、エネルギー安全保障などがあります。

エネルギー効率については、それぞれのサイクルで段階的に効率は落ちていくので、最終的な効率はそれぞれの効率の積となります。そうするとかなり低くなるわけです。石炭や天然ガスを直接燃焼させて発電したり熱を回収する方が、効率的には良いのです。

コストについても、ライフサイクルのどこの部分で、削減する余地、可能性があるのか、現状不確かなところがあります。15~20円/Nm3を目標とするとしても、現状では30円台後半~40円だということです。一説には、専用の特殊タンカーの容量が大きくできれば、ビクトリア州と神戸間の輸送費をかなり下げられると言われています。

エネルギー安全保障については、石油などと同じようにも感じます。オイルショックの時、中東からの原油が止まりました。豪州は、あの当時の、そして現在の中東とは異なり、政治的な問題、テロなどは少ないと思いますが、それでも、労働者がストを行う事は多いと言われています。

一番良いと考えられるのは、海で囲まれた日本ですから、海水や水を利用した水素製造ではないかと。但し、日本の産業用の電気代は海外に比べて断トツに高いので、コスト上難しいかもしれません。

技術開発に期待したいのですが、原理的にできないという面もあるので、どこまでが可能なのか、よく見極めが不可欠です。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?