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世界最大のShute Creek のCCUS事業、ビジネスモデルは機能しているのか?

World’s biggest Carbon Capture project: Shute Creek’s “sell or vent” business model isn’t working - Energy Post

 

1.はじめに

 脱炭素技術の一つに、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)があります。このCCS技術によって、よしんば、発電所や工場などからCO2を排出したとしても、それを大気中に拡散していく前に、CO2を捕獲・貯留してしまい、CO2を大気に放出させないという発想の技術です。

 

2.CCSの各工程

このCCSのプロセスは以下の通りです。

①    石炭火力発電所からCO2が排出されたとして、排出ガスを吸収塔に送り、そのガスを吸収液と接触させることによって、ガス中のCO2を吸収液中に捕獲する。

②    CO2を吸収した吸収液を下流に設置された再生塔に送り、再生塔の運転温度を100℃程度、あるいは減圧することによって、吸収液中に溶解していたCO2をストリッピング(放散)させ、高純度のCO2として回収する。

③    高純度のCO2を昇圧して、その高圧CO2を適地の地中や海中深く(800~1,200m)にある枯渇油田やガス田に注入する。

④    高圧CO2は、油田やガス田のキャップロックの下に注入する。キャップロックは蓋の役目をするが、封じ込められたCO2の一部はゆっくりと塩水に溶け始め、無期限に閉じ込められ、再放出しない。

(資源エネルギー庁資料)

このCCS技術には、色々な課題があり、最終的には「経済的に成立しない」と言われています。

米国などでは、古くから枯渇油田に高圧のCO2を注入し、その圧力を利用して、油田から原油を搾り取るために利用されてきました。これを原油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)と呼んでいます。当然、原油を生産するわけですから市場で販売することができ、利益をもたらします。CCSを実施するコストより原油増産の利益が大きい コスト<<利潤 ので、ビジネスとして古くから成り立っています。そのため、米国人の中には、EORを前提に、火力発電の利用もOKという人もいます。

日本でも、北海道の苫小牧沖でCCSの実証試験を行い、10万トンのCO2を貯留したと聞いています。マイクロ地震、漁業への影響など、試験前には色々懸念されていたようですが、あまり大きな障碍が発生したとは聞いておりません。

3.CCSの問題点

それでは、日本でCCSを実施するのかという問題が残ります。一般的に言われているのは、貯留適地の問題、経済性、地震や漁業への影響などです。適地はあるようですが、そこに貯留したとして、米国のように原油増産という可能性は低いので、コスト大、利益ゼロ、そうすると、コストは消費者が負担するということになり、今でも高い我々の支払っている電気料金がさらに高くなります。

従って、実証試験止まりで普及はしないと踏んでいます。ところが、太陽光発電やバイオマス発電のように、CCSをFIT制度と組み合わせて普及させようという人もいるようです。

FIT(Feed in Tariff)は、再エネ設備普及のための補助金制度です。ソーラーパネルやバイオマス発電と同じく、機器や設備を設置した人には補助が出て、売電すれば、買い取ってくれます。色々なコストが発生してくるわけですが、再エネ賦課金で運用されています。この賦課金は、電気料金の中に組み込まれているものです。機器・設備を設置していない人、恩恵を受けていない人にも、請求が来ます。恩恵を受けているのは、設置した人だけですので、不公平感の明らかなおかしな制度です。

4.世界最大のCCS事業、エクソンモービルのShute Creekの現状


さて、米国ワイオミング州のエクソンモービルのShute CreekにCCUS施設という、世界最大の炭素回収プロジェクトが動いています。このプロジェクトは1986年から始まっていますが、CO2の半分は大気中に排出され、残りのほとんどは、枯渇した井戸に注入され原油増産のために使われています。

専門家の調査によれば、わずか3%しか地下には貯蔵されていないということです。彼らは、この「Sell or Vent」、つまり、「販売か大気排出か」というビジネスモデルに欠陥があると言っています。

Carbon-Capture-to-Serve-Enhanced-Oil-Recovery-Overpromise-and-Underperformance_March-2022.pdf (ieefa.org)

原油価格が低迷すれば販売する原油量は減少します。そうすると、原油増産用に注入すべきCO2量の必要量も減ります。大気中に放出されるCO2が増加することになり、この施設は、技術的な理由ではなく経済的な理由から、設計されたCO2の量を回収していないことになります。

一方、そのようなプロジェクトは、炭素回収に多大な貢献をするという理由で、補助金を受けています。世界のすべての炭素回収プロジェクトの70%以上がCCUS(炭素回収、利用、貯蔵)であり、石油回収の強化に使用されています。残りの30%のほとんどはCCS(炭素回収、貯蔵)です。

5.Shute CreekにCCUS施設の特徴及び留意点

①このCCUS施設は、CO2を回収して市場性のあるメタンを生成する制度設計である。
②そのCO2の約半分は、施設が使われている間は、CO2を大気中に排出している。
③回収されたCO2の残りの半分は石油会社に売却され、EORとして利用されている。
④回収されたCO2の約3%だけが地下に貯留されている。
⑤石油価格が下がると施設の売上高は減少し、CO2排出量は増加する。

 このプラントの回収した累積CO2量は約1億2,000万トンで、設計値よりも約34%少ない。5,400万トンのCO2がプラント運転中にプロセス上の必要によって排出され、その他に6,600万トンのCO2が大気中に放出されている。

6.つまり

エクソンモービルのShute Creekの現状から、ここでいう炭素捕獲・貯留事業は、気候の解決策としては、非現実的に思えます。そして、米国などの産油・ガス国においては、石油・ガス産業の寿命を延ばすための補助金収穫計画であり、排出削減投資ではないと考えるべきではないでしょうか?今後、日本はどのような青写真を描いて進んでいくのでしょうか?


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