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国連IPCC議長、温室ガス削減「行動を」強調

1.IPCC報告書と議長見解

IPCCが温室効果ガス排出削減策に関する報告書を公表したのを受け、李会晟議長は4日、オンライン会見し「私たちには道具もノウハウもある。行動を起こす時だ」と強調したそうです。
共同通信の記事によれば、報告書の骨子として、                         
・産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える             
・遅くとも2025年より前に排出を減少に転じさせ、2030年に2019年比で43%減、2050年に84%減まで持ち込む必要がある。          
・大幅な排出削減には、世界の排出の3分の1を占めるエネルギー部門において、化石燃料の削減や省エネルギーが重要になる                          
・消費者が実施できる対策としては、徒歩や自転車での移動、EVなど電化された交通手段の利用といった行動面の変化に大きな効果を見込んでいる。                              
・産業部門では素材の効率使用や製品の再利用、リサイクルを進める。  
・実現に向けては、数兆ドルを要する排出削減策への投資も官民で進めるべきだとした。

2.2025年より前に排出を減少に転じさせる国?

李IPCC議長が伝えたいメッセージは、「気温上昇を1.5℃に抑えるためには、遅くとも2025年より前にCO2排出を減少に転じさせることが必要だ」ということでしょう。

ここで、おさらいになりますが、各国のCO2排出量を見て見ましょう。2018年データによれば、中国=年間100億トン、米国=50億トン、EU=32億トン、インド=24億トン、ロシア=15億トン、そして日本=11億トンなどとなっています。

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この円グラフから、中国は毎年日本の約9倍ものCO2を排出していることが明らかです。日本が巨額の税金(例えば百兆円)を注入してCO2削減を行っても、中国がちょっと何かをやらかせてしまったら、日本の努力などは吹き飛んでしまいます。従って、「2025年より前に排出を減少に転じさせ」なければならない国の筆頭に、中国が来ると考えるのは当然でしょう。

3.中国と石炭の関係

それでは、中国はどのような将来計画を持っているのでしょう?それを議論するためにも、中国のこれまでの経済成長を振り返ってみましょう。

中国のGDPの推移を見ると2005年頃から上昇が始まり、2010年にはGDPの成長勾配が最大になっています。その後、勾配はなだらかになり現在に至っています。2010年頃といえば、中国がGDPで日本を抜き世界2位になった年です。また、2033年以降、米国を抜いて1位になるとの予想もあるようです。

近年は予期せぬことが起きるご時勢なので、将来の事は誰も分かりません。

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こうした旺盛な経済活動の基本は、エネルギー、すなわち電力です。2019年の中国の発電量は7兆3,253億kWhで、日本の約7倍です。中国の電源構成をみると、石炭:65%、水力:17.8%、原子力:4.8%、天然ガス:2.8%、その他10%(風力:5.5%、太陽光・熱:3.1%など)となっています。

従って、中国の20年近くの経済成長を支えてきたのは、主に石炭だという事になります。

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中国の石炭可採埋蔵量は1,387億トンで、世界4位の存在感を示しています。そして、産炭量は、2021年で前年比4.7%増の40億7,000万トン、通年でも過去最高を記録したそうです。

自国の資源を利用するという発想はごく自然なものですが、石炭の利用は、これからも続くのでしょうか?

4.中国製造2025

中国は、公式に「中国製造2025」や「2030年CO2排出ピークアウト」、「2060年ゼロエミッション年」などを発表しています。

「中国製造2025」は、習近平が掲げる産業政策で、2015年5月に発表しています。次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し、製造業の高度化を目指すというものです。建国100年を迎える2049年に「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指す長期戦略の根幹となるものです。重点分野として

① 次世代情報技術(半導体、次世代通信規格5G)
② 高度なデジタル制御工作機械・ロボット
③ 航空・宇宙設備(大型航空機、有人宇宙飛行)
④ 海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
⑤ 先端的鉄道設備
⑥ 省エネ・新エネ自動車
⑦ 電力設備(大型水力発電、原子力発電)
⑧ 農業用機材(大型トラクター)
⑨ 新素材(超電導素材、ナノ素材)
⑩ バイオ医薬・高性能医療機械
となっています。

2025年までの第一段階の目標は「世界の製造強国の仲間入り」としています。品目ごとに国産比率の目標を設定しており、例えば産業用ロボットでは「自主ブランドの市場占有率」を25年に70%としています。次世代通信規格「5G」のカギを握る移動通信システム設備では25年に中国市場で80%、世界市場で40%という高い目標を掲げています。中国政府は「中国製造2025」の策定後、関連産業に対する金融支援や、基盤技術の向上支援などの施策を相次ぎ打ち出しました。

これに対して、中国と技術覇権を争う米国は、この中身に警戒を強めており、米中貿易協議などでは、中国に対し関連産業への財政支援の中止など抜本的見直しを要求したようですが、中国は応じない姿勢を続けて来ました。

こうした新しい分野の技術開発を行い、「世界の製造強国になる」ためには、欧米や日本の技術を借りてくるのではなく、独自の国産技術を開発・実現していくことが不可欠です。かって、中国は、石炭化学産業を振興させるために、欧米のガス化技術を導入し、それをコピーして国産技術を開発したという経緯があります。上記10分野についても、同じような取り組みが必要になるのかも知れません。

5.技術開発とCO2対策

新規分野の技術開発というと、莫大な資金と資源が必要になります。資源の重要な要素の一つが、エネルギー、電力です。2049年を目標年とすると、エネルギー源の確保は第一の主要課題でしょう。

一方で、中国は世界に対して、「2030年CO2排出ピークアウト」を宣言しています。即ち、2030年まではCO2をこれまでと同じように出し続けますよと言っていることになります。上記の10分野で強国となるために、2030年までの8年間は、技術開発に邁進すると宣言しているわけです。

また、中国は「2060年ゼロエミッション」も宣言しています。2030年から2060年までは、CO2の排出も気にしながらも技術開発を進めて行くと言っているのですが、実際、現実的かつ戦略的な中国のことですから、CO2削減のスローガンは形だけのものかもしれませんね。

ここで日本の事ですが、政府や官僚などは、欧州の意向を安請け合いしていると感じてしまいます。国益のため、条件闘争を挑んで欲しいと思います。

6.2050年、日本の水素需要

日本では、ご存知のように、2050年ゼロエミッション目標年としています。エネルギー部門の取り組みについては、石炭からCO2排出負荷の少ないガス火力への移行(といっても、3~4割程度軽減)、アンモニア混焼、水素利用などが言われています。究極の姿として、グリーン水素による水素発電があります。令和2年のNEDO資料には、水素産業の現状と課題として、

①水素発電タービン:実機での実証がまだ完了しておらず、商用化が課題、潜在国内水素需要=約500~1,000万トン/年                                                ②FCトラック:実機実証中、商用化が課題、潜在国内水素需要=約600万トン/年                                   ③水素還元製鉄:技術未確立、大量かつ安価な水素の調達が課題、潜在国内水素需要=約700万トン/年

7.中国のCO2削減対策

中国が「CO2排出を減らそうと考えている」という前提で考えると、石炭に変わるクリーンな電力源があれば、エネルギー部門から排出されるCO2問題は解消されることになります。これまでの石炭を何で代替するのでしょう?

日本のように、中国でもグリーン水素から水素発電を導入することにより、CO2削減、2060年ゼロエミッションを目指しているのでしょうか?

2018年に国家能源投資集団の発起によって設立した中国水素聯盟のシミュレーションによれば、2030年、グリーン水素需要は年間500万トン(全水素の13%)、2060年になると年間1億トン(80%)だということです。そして、2060年の水素利用の内訳は、輸送関連が4,050万トン、産業が7,790万トン、ビル・発電に600万トンとなっています。つまり、発電への応用は計画されていないということが分かります。

そうすると原子力発電への移行という事になるのでしょうか?

少し古い2014年のデータでは、中国における原子力発電所は、運転中が19基、建設中29基、計画中225基の合計273基、出力2億8,136万kWとなっていました。一方で、世界では429基、3億8,823万kW、日本の原発は稼働ゼロという状態でしたが、出力容量としては 4,426万kWだということです。
最近の数字では、運転中が45基、建設中13基、計画中43基の合計93基ということで、いずれにせよ、原子力主体の発電事業を計画しているようです。

8.社会的課題ほか

手元にある資料から、中国では、多数の原子力発電所が稼働している姿が想像できます。安全かつ効果的に稼働すれば、エネルギー部門のCO2対策につながります。問題は、寧ろ、技術的な課題より、現在、石炭-石炭火力というバリューチェーンで働いている多数の労働者の雇用といった社会的な課題の方だと思われます。

冒頭、IPCC報告書や李議長の会見で、「遅くとも2025年より前にCO2の排出を減少に転じさせる」という事が述べられていると書きました。中国を抜きには考えられないことです。中国の現状及び今後を考えれば、全く現実を無視した空想的な発言ではないのでしょうか?技術的な解決はできるとしても、社会的な問題の方が大きく、社会構造そのものを変えてしまうものだと思います。CCPがうまくやれるのか、そうは簡単に行かない問題でしょう。






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