見出し画像

見てくれ

 いや、わかってるよ、と藤原は思った。わかってるんだけど、やる気にならないっていうか、そう、残業が長引いて疲れたからさ、もうぐったりで。たださ、今日やらないとずっとやらない気がするし、ここで自分を甘やかすのは俺のためにならないと思うんだよ。わかるだろ? じゃあ、早速やろうか。

 ほら、コーヒーばっかり飲まずに、まずは頭の中で内容を整理して、それができたらパソコンをつけて、ささっと書いてさ、って簡単に言うけど、それができたら苦労しないんだって。べつにさ、俺が書かなきゃ誰かが困るってわけじゃないし、公開したところで金が入るってわけでもないし、それに、今日書くぞって決めたのは俺だし、そもそも締め切りなんてないんだしさ、だったら明日でもいいんじゃない?

 いや、昨日もそうやって書けなかったんだ。
 今日は書くぞ。そう決めたんだ。

 でもさ、こんな気持ちで書いて、いい作品ができると思う? どうせ途中で飽きて、ろくに推敲しないんだから、そりゃもう読む気が失せる仕上がりになるのが目に見えてるし、そんな作品を投稿するくらいなら、いっそのこと、書かない方がいいって。

 いや、こんなことだから駄目なんだよ。やるならやる。決めたことをできないから仕事だって遅いんだ。

 俺はやるんだ。今日こそやるんだ。俺は変わるんだ。

「あーあ」

 藤原は二杯目のコーヒーを淹れた。ノートパソコンは部屋に帰ってからずっとコーヒーと同じ真っ黒のままだった。〈了〉

いただいたサポートは、ひとりパリピ代として使わせていただき、記事を書かせていただきますm(__)m