[日記] 数字が伸びないからって面白くないわけじゃない

「ぶっちゃけボクというキャラクターは単体で万人に受けるようにデザインされてないんだよ」

Vtuberとしての引退を告げる配信で、彼女はそう言った。ずるい言葉だ。僕は何も言わずに配信を見ていた。引退宣言という、ともすれば暗くなってしまう内容の配信を、彼女は明るく、面白おかしく進めていく。

僕からすれば彼女は、十分に万人に通ずる魅力を持つ人だった。だから虜になったのだ。だから彼女の言葉を否定したかった。そんなことはないと反論するのは一見容易いように思えた。けれど、それはより悪い事実を突きつけるだけになるのかもしれない。

彼女は「数字がある」Vtuberではなかった。大手事務所の基準からみても当然そうだったし、あるいは中小の、個人のVtuberと比べても、目に入るような人たちを基準にすればそうだったと言ってもよかった。彼女の引退の理由は、突き詰めれば数字が取れなかったことなのだ。長い活動の中で、集まった数字は彼女を納得させるだけのものではなかった。

彼女の言葉を肯定することは僕にはできなかった。僕は今の彼女が好きになったのだ。キャラクターデザインが悪いなどとは到底思えなかった。けれどもし彼女の言葉を反駁したとしてそこに残るのは、ただ伸びなかったという事実だけだ。悪い要素がないのに伸びなかったのならば、その原因は彼女の実力に帰するのではないか――そんなことあってたまるか!

彼女は魅力的な配信者だった。声も、見た目も、話も、思想や思考も、そのキャラクターは有名大手事務所のVtuberと比べて何ら劣るものではなかった。ただ、世の中から見つけられなかったのだ。ただそれだけのことで――ただそれがなかったためにたくさんのVtuberが夢を諦める。彼女もそのありふれた終わりを迎えたVtuberのひとりなのだろう。

告知配信で彼女は終始笑っていた。引退宣言というのが嘘のような雰囲気だった。それでも僕は彼女の笑い声の奥に夢破れた少女を幻視せずにはいられなかった。ひとつの諦めが、確かにそこにあるような気がして、僕はみんなと一緒にはしゃぎたてるような気分にはなれなかった。

救いなのは、彼女が全く活動をやめてつゆ消えるのではなく、クリエイターとしての名義に軸足を移して、配信活動もわずかながらしていくということだ。いうなれば中の人が残ったということになる。だから実態としては実のところ何も変わらないのかもしれない。僕は彼女の才能を疑っていないから、なんだかんだクリエイターとして有名になるんじゃないかとも思う。

それでも、Vtuberとしての彼女は、一度ここで死ぬのだ。だから僕は、Vtuberだった彼女への手向けとして、この悲しみをここに書き記しておこうと思う。引退なんてしてほしくなかった。Vtuberのあなたが消えてしまうのは、とても寂しい。


https://twitter.com/sameno_uta

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