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#小説

遺産相続6

遺産相続6

☞1

「月子、アンタね、閉鎖的で保守的で封建的な日本の過疎地域の山村で、自分の性別とか生態とか姿かたちによ、それに猛烈に違和感のある男の子がそんなクソ田舎のその家の長男として生まれて18歳までそこで育つのがどういう事かって考えたことある?」

「ありません」

「即答しないでちょっとは考えなさいよ!」

「それは、あけみさんの、いえ、猪熊孝明さんの生い立ちの事でしょうか」

あけみちゃんこと、猪

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スイセイのこと 7

スイセイのこと 7

☞18

お母さんと妹が骨という無機質な塊になって僕達の古い木造家屋に戻ってきてからしばらくの事を僕はあまり覚えていない。

ただ事故の後、生命保険だとか損害賠償だとか被疑者死亡で書類送検だとか民事裁判だとか僕が新聞やニュースで見聞きした覚えのある文言が、事態の終息へのあまりの煩雑さに耐えかねたサカイさんが依頼した弁護士さんとサカイさんとたまにスイセイの間で飛び交っていた事を僕は断片的に覚えている

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スイセイのこと 5

スイセイのこと 5

☞11のつづきから

僕は、うつむいたまま、耳まで赤くなってしまっているスイセイに説明を求めた、それはどういう事なのか、スイセイが結婚すると決意しても、僕の知るかぎり結婚というものには双方の同意が必要の筈だ、スイセイが一方的にそんなことを決めても、結婚は成立しない。お母さんはそれに同意しているのか、仮にお母さんがスイセイとの結婚に同意しているとして、その場合、お母さんの息子である僕と、スイセイのこ

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スイセイのこと 4

スイセイのこと 4

☞8

『スイセイが僕の面倒をみているのではなくて、僕がスイセイの面倒をみている』

それは僕の中では純然たる事実だったけれど、それでもどうしても立場を逆にしないといけない事が起きる時が稀にある。

僕が3年生になった春頃から、お母さんは、地方に住んでいる若い農業や漁業、あとは酪農なんかに従事している人たちと野菜や、主にその地方の小さな工場や工房で作られた加工品を、インターネットや小さな即売会を通

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