『彼がチキンなら、僕はウサギだよ。』ー対話ー

「そんなの…俺には、向いてないから、
 俺じゃダメなんだよ。俺よりも、
 もっと優秀な人がやるべきなんだよ。」
彼は、背中を丸くし、
両肩を下げて、悲しい表情をしている。
「だって俺は…チキン野郎だよ。
 受かる自信も、長続きする自信もない。
 正直、生きるより死んだ方がマシだよ。」
「それは、分かる。」
今いる環境が辛くて、苦しくて。
もう、逃げたくて、消えたくて。
『今すぐ、ここから消えたい』と思う。
「だから、俺はもう、ダメなんだ。」
「ダメ、か…」
僕自身、彼と同じなのかもしれない。
自分に自信も持てなくて、
どうしたらいいのか、分からない状況。
「僕も、自分はダメなやつだと思う。」
「そうなのか…」
彼の視線は、床を見つめていた。
「うん。だから、ダメはダメなりに、
 ダメらしく生きていこうかな〜って。」
「なんだそれ。」
「捻りまくった考えだよ。」
そう。『捻りドーナッツ』として、
バカ売れすると思うくらいに、
捻りに捻りまくった考えだった。
勿論、中身は真っ黒なあんこがいい。
「それよりも大事なことは、
 "純粋な思考"だと思うよ。」
「ん?"純粋な思考"って?」
「"あなたはどう思うか"だね。
 例えば…そうだね…これとか?」
ーーバキバキッ
僕は、コンビニ弁当と一緒についてきた
割り箸を半分に折って見せた。
「おいおい…"今から食べるのに、
 いいのか"よ。そんなことして。」
「いいよいいよ。マイ箸、あるから。」
そう言って僕は、
バックから箸を取り出した。
「さっきの様にね、割り箸を割る
 出来事が起きた時に、
 "今から食べるのに、いいのか"と
 "素直な意見"を思えることが大事だよ。」
そう。言わなくても、思えることが大事。
「でもさ、それ言ったらおしまいやん?
 ほら、"割り箸の割る音が嫌い"とかさ。」
「うん。言ったら、危ないかもね。
 でも、思うことはいいんじゃない?」
「まぁなぁ…そうかもな…」
まだ彼は、頭を斜めに傾けている。
「要は…態々、自分の思いを、
 言葉に表してまで、人に言う
 必要があるのか?って、事だよね〜。」
「そうなんよね…思いを、
 伝えるべきかどうか、悩ましいわ…」
「うーん…」
正直な話、"相手に寄る"と思う。
今の僕のように、彼の思いを表した
言葉を聞きたがる人もいる。
反対に、彼の言葉を聞きたくなくて、
スパッと話を切り上げる人もいる。
「一度、伝えてみたら、
 いいんじゃない?その人に。」
「えぇ…でも、嫌われるよ。絶対。」
彼は困惑した表情で、僕を見つめた。
「へぇー、嫌われたくないんだ。
 好きなの?その人のこと。」
ちょっぴり、からかうような口調で、
彼の反応を楽しみに待つことにした。
「い、いやぁ…まぁ…そう…んー…
 えー…うー…そ、そう…か?…」
彼は、思いっきり困惑していた。
彼の反応を十分に楽しんだ僕は、
今の彼と僕の状況を伝えることにした。
「まぁ、好きか嫌いかは置いといて、
 今もこうして、話してくれてるよね。」
「そりゃ、唯一の話し相手だしな。」
唯一ってことは、
他に話せる相手がいないのか。
「話し相手がいるってことは、
 何よりも重要なことだね。」
「それは、どうして?」
「"情報を分かち合えるから"。
 俺はこう思うとか、こうなったとか、
 自分の考えや成り立ちを、
 お互いに知れるんだよ。」
「へぇー。」
彼は興味なさそうな返事をした。
「単純な話をしてもいい?」
「いいよ。」
彼の身を引くために、
自分の経験談を話すことを決意した。
「諦めたいって思うことが多々あるよ。」
「だよな。」
タイミングよく、相槌を打ってくれた。
「その時はね、色んな人に話してる。」
「ほぉ。」
「もちろん、伝え忘れることもあるよ。
 後からこう…思い出すこともあってね。」
実際に、後から、
思い出すことが何度もあった。
「だからって、立ち直れるわけ
 ではないけど、なんて言うか、
 適当に生きていこうかなって。」
「適当に?」
「そう。適当に。」
「うーん…それは、むずいかも。」
まだまだ、彼は頭を抱えている。
「事態を深刻に捉えてさ、
 何でもかんでも『俺の責任だ』って
 胸張って言っても、かっこよくないよ。」
「え?」
「それよりも、自分の思いを打ち明けて、
 『そんな思いで取り組んでいた』って
 言ってくれる方が、何倍も助かるよ。」
「でも、それって言い訳だろ?」
「言い訳でもいいよ。言い訳も含めて、
 『自分の思っていること』何だから。」
「そしたら、また、人を選ばないと。」
「そうだね。それに、
 情けない話かもしれないけどね…」
言うかどうか少し悩ましい。
「それに、なんだよ!?」
どうやら彼は、続きが気になるみたいだ。
ここは、話してみることにした。
「自分の思いを打ち明けて、
 大切な人たちから応援してもらうと、
 もう少し生きてみようって、思うんだ。」
「もう少し生きようって、まさか…」
「そのまさかだよ。
 僕も悲観的思考の持ち主だ。
 生きることを辞めたいと願う人だね。」
「マジかよ。」
「マジだよ。だから僕は、
 一人で抱えることをやめたんだ。」
僕と彼は、似た境遇にいるのかもしれない。
「僕は、一人では生きてけないウサギだよ。
 誰かを頼ることで、今を生きている。」
ずっと一人なら、この人生を、
今すぐにでも、終わらせてもいい。
そう思える程、誰かと共に生きていたい。
「もう、一人は…懲り懲りなんだ。」
唖然とする彼に、僕はそう告げた。

当たり前のように思える毎日に、"同じ日がないこと"を知った。きっと、あなたのその行動にも、"同じ行動はない"でしょう。"かけがえのない毎日"と"あなたのその何気ない行動"は、たった一度の出来事なのよね。ありがとう。