『私の芸術活動』ー小説ー

『私の芸術活動』ー小説ー

私の小説活動〜part 1〜

ーーーーーーーー回想ーーーーーーーー

小説を書かなくなったのは、
いつ頃だったのだろうか。
「昨日?先月?一年前?」
思い返しても、思い出せないわ。
「忘れた」
いっそ、忘れたままでいい。
このまま何も思い返せないまま、
だらだらと時が過ぎ去っていけばいい。
なんてつまらないことを考えていても、
もう、声をかけてくれる人はいない。
「はぁ…」
どうしてこうなってしまったの?
やるせない気持ちだけが募っていて、
どうにもこうにも気が晴れないわ。
「仕方のないことだとは、思うの」
そうよ。仕方のないことよ。
でも、心のどこかではまだ、
諦められない気持ちが燃えている。
「私の大好きな道…」
当時、華やかな衣装を身にまとい、
優雅に暮らしていた幸せの毎日。
夢に向かって努力している自分が、
好きで好きでたまらなかった。
「…でも、もう…」
凛として咲く花も、一つ、また一つと、
花びらが散ってしまうように、
私の幸せな要素も、一つ、また一つと、
形を変えて失ってしまい、
この部屋に当時の思い出は、残っていない。
「…消えてしまったのね」
私にとって小説は、
薔薇色の人生そのものだったのに。

ーーーーーーーとある日の講義ーーーーーーー

「芸術は己の一部です 」
毅然とした発言で聴く人を導く指導者は、
私の所属するゼミの大方先生だ。
「美しい絵画と美しい風景の
 違いをご存知ですか?」
大方先生が言っている言葉に、
どのくらいの信憑性があるのか分からない。
ただ、嘘ではないような気がする。
「"想い"です。美しい絵画には、
 作家の想いが込められているんですよ」
黒板の真ん中にどでかく2文字だけって、
どんな贅沢な使い方をしているんだろうか。
「ぜひ是非、美術館に足を運んだ際は、
 作家の想いを想像して絵画を見てください」
教本を畳むと直ぐに黒板の文字を消す。
時間帯的にも終わりの合図が来た。
「それでは、今日の講義はここまで。
 お疲れ様でした」
誰よりも早くこの場を去る先生は、
何かしらの"信念"に従って行動している。
そうでないと、あんなにも堂々と
自分を表現することなんて出来ないわ。
だから私は、その考え方に近づきたくて、
大方先生のゼミを選んだのよ。
「詩津。ねぇ、しぃーずぅ?」
そして隣には、湖音がいて…
「って、えっ?えっ?」
なんで湖音の声がするの?
私ったら現実的な夢を見てるのかな。
「何をボケーとしてるの。
 次、食堂行くんでしょ?」
「いーっ、痛いってー!!」
そんなに頬をつねらなくってもいいでしょ。
ちょっとぐらいは手加減してよ。
って、言える度胸が私にあればいいけど。
「いいから片付けて。さっさと行くよ」
「うん。分かった」
ベージュを基盤にブラウンのロゴが入った
スマートリュックの中へ、教科書やプリント、
筆記用具を順番に入れていく。
「前々から思っていたんだけど、
 詩津って几帳面だよね」
「そんな事ないよ」
そんな事あるんだけど、
つい、反射的に否定してしまった。
急に自分の事が話題に上がると、
怖くなって直ぐ、話題を終わらせたくなる。
ごめんね。湖音。素直じゃなくて。
「そっか。じゃ、こうしてもいいのね」
「ちょっ、やめっ!くすっ、ぐったい!」
横腹も痛いけど、周囲の目が痛いから!
やめて!誰か、早く湖音を止めて!
「あっ、湖姉?」
「ことねぇじゃん」
「あ〜!紗知に結依だ!やっほ〜!」
ほどなくして湖音が紗知や結依に手を振ると、
満面の笑みを浮かべて二人の元へ駆けつけた。
「ふぅ…」
やっと解放された。
もう人生終わったかと思った。良かった。
「湖姉、昨日のドラマ見た?」
結依は大のドラマ好き。
得に、恋愛ドラマを話題に出すことが多い。
「イケメン俳優が主演を務めてるヤツ」
紗知はアイドルオタク。
ファングッズを買い込んだり、
イベント会場にも行ったりしているらしい。
「あ〜、あれね。見た見た」
湖音は会話のプロ。
その場のノリに合わせ上手な努力家。
「回を追うごとに益々、惹かれちゃうよね」
今回も早速、左耳の後ろを2回、
人差し指で少し掻いた。
湖音がよく、困っている時に行う動作だ。
「湖姉も、ああいうタイプが好みなのね」
「えっ、うちと一緒じゃん。
 行こうよ。今度ここで会えるから」
紗知がうさぎの耳がついた
スマートフォンを、湖音に見せている。
ここからだと、何が写っているのかまでは
分からない。けど、イベント会場の事だろう。
「さっき紗知とさ、湖姉なら絶対来るから
 三人で行こうよって、話してたところで。」
「だって一人だと心細いじゃん。
 それに、結依だけとじゃ味気ないし」
「何よそれ」
「いつも一緒にいるから物足りないってこと」
「そういうことね!」
「そうそう。そこで、湖音が来て三人なら
 もっと楽しくなりそうじゃん!って」
「どう?湖姉も来る?」
紗知と結依は、大学に来る前までの
付き合いが長いらしく、二人でいる事が多い。
一緒にこの大学へ来るほどの間柄らしい。
「あっ、行く行く!来月の土曜日よね!」
また左耳の後ろを2回、人差し指で少し掻く。
うぅ…見るに耐えられない。
心做しか、湖音の左耳の後ろが赤く見える。
「あのままでいいの?」
「うおっ」
ビックリした。あまりの唐突さに、
声がした方向から身を遠ざけてしまった。
油断したわ。
「で、何の用?」
「友達。困ってるでしょ。あれ」
「関係ないでしょ。拓磨には。」
高校3年間同じクラスだったけど、
特に親しくもない関係だし。拓磨とは。
「せっかく出来た友達なんだろう。
 ってか、親友でしょ」
「そうだけど何か?」
「俺のことは嫌ってもいいから、
 湖音のことは頼んだぞ」
「あんたに言われなくてもわかってる」
「素直じゃないな。詩津は。
 じゃっ、行ってくるわ」
「お好きにどうぞ」
インチキ詐欺師拓磨め。べーだ。
なんであんな奴がモテるのか、
さっぱりわからん。
「こーとね。おっす」
その瞬間、湖音の左耳がピタリと止まった。
「おっす〜!拓磨」
「拓磨さん?」
「拓磨くんじゃん!かっこいい〜!!」
一気に、話の流れと三人の視界を奪う詐欺師。
「はぁ…」
一体どれくらいの被害者女性がいるのだろう。
「さっき、魁斗が学食に行ったんだ。
 『湖音のために先並んどくわ』って」
「えっ!いつ!もう?さっき?」
「さっき、さっき」
「ごめ、紗知。結依。私、急ぐね!」
「了解、湖姉。足元に気をつけてね」
「湖音モテモテじゃん。行ってら〜!」
「ありがと〜!ばいばーい!」
湖音が元気いっぱいに走り出す。
いくら運動靴とは言えど、
スカートだと走りづらいはず。
きっと、嬉しくてたまらないのだろう。
私のことも忘れて行ったぐらいだし。
「じゃっ、俺も行くわ」
「拓磨さん、またね」
「拓磨くん、行ってらっしゃい!」
紗知も結依も、湖音を見送ったらすぐ、
拓磨の方ばかり見ている。
これはもう、二人とも手遅れかな。
「おう、またな。行ってきます」
そう言って、軽く駆け足で学食に向かう
拓磨の後ろ姿を、ずっと眺め続けている。
「拓磨さん、かっこいい」
「かっこいいよね!拓磨くん!」
「うんうん。イケメンだわ」
「国宝級のイケメンよ!目の保養になる〜!」
「ねっ!さて、紗知。私たちも行きますか」
「行きましょ〜!今日のお弁当わね…」
紗知と結依は楽しそうに話し合いながら、
私の横を通り過ぎていった。
結局私は、どうすることも出来なくて、
困っている親友がイケメンの詐欺師に
助けられる場面を、ただ眺めていただけで
終わってしまった。
「はぁ…」
いつになったら私、変われるのかな。

※この物語はフィクションです。

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【あとがき】
ここまでご愛読して頂き、
誠にありがとうございます。

久しぶりに物語を書いてみました。
「どうでしょうか?」
もし良ければ感想を頂けると嬉しいです。

今回の作品は、ドラマの場面展開と
個性豊かな人物を取り入れて書いてみました。
初めての要素で、まだまだ、
拙い表現があると思いますが、
温かく見守ってくれると幸いです。

それでは、軽く【人物一覧】を書いて
【あとがき】を終わりとさせて頂きます。

【人物一覧】
詩津(しづ)
・小説を書いていた。
湖音(ことね)
・周りに合わせる協調性が高い。
結依(ゆい)
・大のドラマ好き。
・紗知とは、長い付き合いのある間柄。
紗知(さち)
・アイドルオタク。
・結依とは、仲良し。
拓磨(たくま)
・困っている人を見ると、放っておけない。
魁斗(かいと)
・拓磨の友達。
大方(おおかた)先生
・芸術家の先生。

当たり前のように思える毎日に、"同じ日がないこと"を知った。きっと、あなたのその行動にも、"同じ行動はない"でしょう。"かけがえのない毎日"と"あなたのその何気ない行動"は、たった一度の出来事なのよね。ありがとう。