『私の芸術活動』ー小説ー

『私の芸術活動』ー小説ー

私の親友と憧れの作家との出会い〜part 2〜

ーーーーーーーー入学式前ーーーーーーーー

『閑古鳥が鳴いたら、客足が遠くなる。』
私には一生、関係ない言葉だと思っていた。
それなのに今、まさに目の前で、
閑古鳥が悠々と鳴いているではないか。
「嘘だ。違う。何かの手違いだって。
 そんなはずはない。ないのよ」
冗談だって言ってよ。私のサイト。
どうして誰も見に来ないのよ。
過去1ヶ月間のアクティブ数が0って、
そんなことあっていいの?
「あぁ〜、もう!!」
いくら髪を掻きむしっても、
さっぱり分からないわ。
「はっ!もしかして!」
サイトを訪れていた読者から、
呆れられた?嫌われちゃったの?
もう興味ないって、見るなって、
私の知らないところで、噂が広がったの?
「もう…もう、いいや。」
一人で騒いで、ばっかみたい。
やってられないわ、この仕事。
大体向いてないのよ。私にネットなんて。
パソコンの起動の仕方も分からないし、
ついたと思ったらネットが繋がらないし。
マウスを動かしても反応しない。
キーボードもろくに打てない。
ブラインドタッチなんて、夢のまた夢だわ。
そう思ってたんだけど、不幸中の幸い、
私の溺愛の弟がこういうのに強くて助かった。
「ありがとう。朔玖。」
やっぱり持つべきは、家族だよね。
「ふぅ。」
さてと、これからどうしよっか。
騒ぎ疲れたし、サイトは誰も訪れないし、
勢いで県外の大学へ来たのもいいけど、
特にやることもないしな。かと言って
このまま、のんびりと過ごす訳にもいかないし。
何かこう、情熱を燃やしたくなるほど
熱中できる"何か"があれば、
退屈な時間を全て"そこ"につぎ込めるのに。
「私の"趣味"って、何だろう?」

ーーーーーーー入学式の次の日ーーーーーーー

ここ、学術棟1503号室(B1棟5F)に、
総勢90名による芸術学科の新入生が集まっていた。
何度見渡しても、6名1グループに分かれて、
一つの机を囲うように座る光景は圧巻だ。
「では、来週のオリエンテーションまでに、
 パソコンの設定をしておくように。」
全国から集まった初対面の新入生に対して、
慣れた手つきで連絡事項を淡々と告げる堀橋先生。
流石、長年の勤務歴がある人だ。
圧倒的な余裕感を言葉や態度から感じられる。
「もし、まだパソコンをお持ちでは
 ない方がいましたら、解散後に、
 この注文用紙を受け取ってください」
教卓の隅に置いてあるパソコンの注文用紙を、
後ろの生徒へ見せるように軽く持ち上げた。
「以上で本日のご連絡を終わります。
 それでは、各自で第一希望の先生方に、
 ご挨拶をするように。解散!」
堀端先生の一言で、緊迫した空気が
一気に崩れ、段々と辺りが騒がしくなった。
「おいおい。どこ行く?」
「この後、あそこ行かね?」
「ねぇ、誰にしたの?」
「決めた?」
「それよりさ…」
「それでね!近所の…」
「注文用紙、取ってくるわ」
いくらなんでも早すぎでしょ、みんな。
まだ入学式を終えた次の日だよ?
隣の人の名前すら分からないのに、
なんでこんなにも早く打ち解けてる訳?
「うぅ…」
肩身が狭いよ。
こうなることが初めからわかっていたら、
里美と同じ地元の会社に就職すればよかった。
──よし、決めた。
大方先生に会って、退学する事を伝えよう。
最後ぐらい、憧れの作家さんと話したいし、
大方先生の影響を受けて小説を書き始めたし。
「行こう」
確かこのドアを出て左へ向かい、
突き当たりを右に行けば、
両サイドが先生方の研究室だったはず。
「えっと…」
大方先生は1509室で、ここが堀橋先生の
1508室だから、あっ、ここだ。
「『営業中』って、流石に悪趣味でしょ」
ここへ来て、初めて知ったわ。
よく今まで、クレームが入らなかったわね。
ふざけてる研究室があるって、
一躍有名スポットになっていそうだけど。
「うーん…」
ドアガラスは、中が見えない仕様なのね。
研究室の中から声は聞こえないし、
きっと、まだ誰もいないのかもしれない。
「…どうしよう」
やっぱり何も言わずに帰るべきなのかな。
普通、退学するなんて話しはさ、
ゼミの先生より事務所の人にする話でしょ。
「あぁ〜、もうっ!!」
どうしたらいいのよ!
「わっ!」
「ひぇっ!?」
──ゴツンッ
おでこ。おでこぶつけた。ドアに。
「いててて」
「わ〜、ごめごめ」
「った〜っ!!」
タンコブできたかも。
「あっちゃ〜。見せて」
「はひっ!?」
涙で視界が歪んで見えるけど、
長いまつ毛に、綺麗な瞳。
どこかのアイドルなのかな。
「ごめんね。そんなに驚くとは思わなくて」
額に冷たくて柔らかい感触がする。
「腫れてるね、これ」
「うん」
今も、じわ〜と痛みが残っている。
「中入るよ」
「いや」
「どうして?」
「まだ心の準備が…」
「そういうのは入ってからでいいから。」
「でも、怖くて」
今も少し、足が震えてる。
「大丈夫。私がついてるから」
「いや…」
「大方は、優しいから」
呼び捨て?大方先生を?
「…分かった」
「じゃ、行くよ」
──カチャッ
「いらっしゃ」
「大方ー!氷!それと水!あーあと、袋ね!」
「はいはい。分かりました。」
何の戸惑いもなく、机の引き出しから
袋を取りだし、ミニ冷蔵庫から氷を取り出す。
「それで湖音さん。隣の子は?」
袋に氷をざっと入れ、蛇口を開ける。
「あ〜、私の友達で、今日から一緒に、
 このゼミに入ることにしたんだ!」
「えっ?」
そんな話は、1ミリもしてなかったはずだけど。
「そうですか」
水道水を注いで蓋を閉めた氷嚢を、
机の上に優しくポンッと置いてくれた。
「改めまして、大方良信です」
「そしてうちは、湖音。苗字は、篠原ね」
この流れは、自己紹介する流れだ。
「あっ、初めまして。
 私は、鈴村詩津と言います。」
ちゃ、ちゃんと言えたかな。
声震えてなかったかな。
「詩津だから、しーちゃんだ!」
「それはちょっと…」
恥ずかしい。
人前だと尚更、恥ずかしい。
「分かった。詩津って呼ぶね!」
「それなら…いいよ」
「ありがとう、詩津。
 これからもよろしくね!」
「よ、よろしくお願いしまっ」
──ゴンッ
「い"っだぁぁぁあああーー!!」
私とした事が。深々と頭を下げて、
机に強打してしまった。やっちゃった。
「あちゃー。同じとこを2回も」
「詩津さん。落ち着いて」
「くっ」
おでこを隠して上を向いたはいいけど、
瞼が重くて白天井が二重に見えてきた。
「大方。どう責任取るのよ」
「責任の前に、詩津さんを座らせてあげて」
「大方の言うことは聞きたくないけど、
 大切な友人のためならっ。ほいっ。」
──ストンッ
パイプ椅子だろうか。
湖音さんが両脇を支えてくれたから、
足元を見なくても安心して座れた。
「詩津。おでこから手を離してね。
 氷嚢を乗せるから〜。どう?」
「つめっ、た〜っ!!」
これはこれで、別の痛みを感じる。
キンキンに冷えたアイスを食べた時の
痛覚に近い感覚がする。というか、それかも。
「冷たいね〜」
湖音が優しく応えてくれる。
「だ〜っ!」
それに応えたいけど、上手く言葉が言えない。
なんだか、一気に眠気が襲ってきたような。
このままだと横に倒れて椅子から落ちそう。
両腕を机に置いて、頭をこう乗せて。
「詩津?ちょっ、詩津!?」
「──ん"」
何故だろう。耳が遠くなってきた。
それに、返事する気力もなくなってきた。
「風邪ひくよ。って、大方?」
「んー、恐らく安心して眠ったようですね。」
「どうしてそう言えるのよ!無神経な!」
「ほらこっち来て。見てごらん」
「えっ。あ〜、これは…」
「幸せそうな表情で寝てます」
「…そうね」
そんな感じの二人の会話が、
夢の中で続いている気がした。
私の人生史上、最も情けない話かもしれないが、
これが篠原湖音と大方良信との出会いだった。

※この物語はフィクションです。

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【あとがき】

ここまでご愛読して頂き、
誠にありがとうございます。

今回は短期間の投稿になります。
上手く物語の場面が浮かんだもので。
少しずつ、小説の書き方を思い出し、
新たな要素を取り入れている最中です。

まだまだ拙い表現があると思います。
これからも温かく見守ってくれると幸いです。

それでは、今回の作品に登場した人物を
【人物一覧】に付け足して、終わりますね。

【人物一覧】
「今回の登場人物」
鈴村 詩津(すずむら しづ)
・芸術学科の1年生。
・小説を書いていた。
鈴村 朔玖(すずむら さく)
・私の溺愛の弟。
・パソコン関係に強い。
篠原 湖音(しのはら ことね)
・芸術学科の1年生。
・アイドル級の可愛さ。
・周りに合わせる協調性が高い。
大方 良信(おおかた よしのぶ)
・芸術家の先生。
・鈴村詩津と篠原湖音がいるゼミの先生。
堀橋(ほりばし)
・芸術学科の最高責任者。
里美(さとみ)
・鈴村詩津の高校の友達。
・地元の会社に就職。

「前回までの登場人物」
結依(ゆい)
・大のドラマ好き。
・紗知とは、長い付き合いのある間柄。
紗知(さち)
・アイドルオタク。
・結依とは、仲良し。
拓磨(たくま)
・困っている人を見ると、放っておけない。
魁斗(かいと)
・拓磨の友達。

当たり前のように思える毎日に、"同じ日がないこと"を知った。きっと、あなたのその行動にも、"同じ行動はない"でしょう。"かけがえのない毎日"と"あなたのその何気ない行動"は、たった一度の出来事なのよね。ありがとう。