あなたが死んでしまうのはいつも夢だから大丈夫

志村けんが新型コロナウイルス感染症で死んでしまった。

子どもの頃、テレビがブラウン管のものだったころ、毎週加藤茶と志村けんの番組を観ていた。
幼い頃の楽しさ・喜びってものは純度がとても高くて大人になった今でも忘れられずにいる。普段意識はしないけど頭から染み付いて離れない、自分の一部を構成する要素としてとても大きいものとして在る。

感染の一報をメディアで知ったときには、元気で戻ってきますようにと純粋に願った。
今になって思えば、とても悪い経過を辿っていることは明白だった。タバコにお酒にハードな生活で健康なわけがない。でも信じたくない気持ちが厳しい現実を認識することを躊躇わせてた。

倦怠感を感じてから、たったの、たったの12日。
古希を迎え、親しい友人に祝ってもらってからたった1ヶ月と少しで、志村けんさんはこの世から消えてしまった。
死去の二文字をみてなんでだか泣けてしまった。
当たり前のことだけど、一度も会ったことなんてない。最近の番組だっていつも観ていたわけでもない。なのにぽっかりと大きな穴が心に空いたのがわかった。
物凄い喪失感だった。

新型コロナで亡くなった人の遺体は、遺体からの感染を防ぐために24時間以内に荼毘に付される。血液体液が漏れないよう、袋に入れられてから棺に納められるから顔も見ることが出来ない。通夜も葬儀もなく花の一つも添えられず、誰にも葬られずに燃えて、骨になってから初めて遺族のもとに帰れる。

たくさんのひとを笑顔にすることに命を燃やしてきた、みんなから愛されるコメディアンの最期がこんな悲しいものになるなんて誰も想像しなかったと思う。
いつものコントのように夢オチだったり、死んでねぇよ!って出てきたり、何度もそうやって、ああよかったって笑いに変えてくれていたひとがこんな。
エイプリルフールにはちょっと早いよ。とか。
あのいかりやさんより若く亡くなってしまうなんて。とか。
志村けんさんのことを考えるたび涙が出てしまう。
物心ついたときから画面の中にいた、親戚のよくしてくれるおじさんのような存在をなくしてしまった。
なくしてから、いつも存在がとても大きかったとかそういうことに気がつく。
元気でいる間っていうのは、それが当たり前だって思ってしまう。そんなことないって知っていても、いつ何時どうなるかわからないのはみんな同じだって知っていても。

馴染みの店が新型コロナで閑古鳥が鳴いていて、助けてほしいと連絡を受けてお金を落としていたという記事もあった。
そうしているうちに感染してしまったようだと。
もしそれが本当なら、優しさが仇になって死んでしまったということ。
人望があった、たくさんの人から好かれていた。
それ故のこんな最期だったとしたらやりきれない。

一番本人が、信じられないし悔しいだろうかなと思うけれど、もう何も訊けない。
いつ死んでもいいと思ってたんだろうか。
舞台の上で死んだフリして、そのまま死にたいって言ってたのをどこかで読んだ。
みんなに囲まれて、盛大な拍手を受けて、そこで死にたかったんだろうと思うと、無念だったろうなと勝手に想像して泣けてしまう。

こんな悲劇は身近でも知らないところでも、起きて良いわけがないと強く思った。
100年に一度、人間を淘汰するかのように疫病が流行ってたくさんの人が亡くなる。
命の価値も、ドラマチックな奇跡も、なにも存在しない無慈悲で無情なただの淘汰としての新型コロナウイルスだとしても、いま時代の中に生きて功績を残したひとをあっさりと奪っていくことに耐えられない。

身近な大切なひとたちがそうなってしまったら、もしくは自分がそう死んだらと想像してまた怖くなった。
いつかはみんな死ぬとして、少しのお別れの準備くらいさせてほしい。
見葬る時間と機会が欲しい。
そうして、故人を諦められるというものだと、そのための葬儀だと思うから。

志村けんさんは、誰にも見られずに骨になってしまった。
急に消えてしまった、もしかしたらどこかに居るんじゃないかって、思わずには居られないくらいに急に。

今日はエイプリルフールだから、バレバレの嘘でみんなに言ってもいいんじゃないか、志村さん、あの。
死んじゃったんだよーって三角の白い布頭につけて、テレビ画面越しに。
それで、2日になったらごめんなさいって言って戻ってきたらいいんじゃないか。

いつも思う。
死んでしまったっていう一報は、当たり前だけど覆らない。
でも、死亡説が出てもずっと人気者だった志村けんさんだったらもしかして、なんて思ってしまう。
あっという間の出来事で、志村けんさんも自分が死んだって気付いてないかもしれないから。

帰ってきたらいいですよ、みんな待ってると思います。
また笑わせてくださいってみんな待ってますよ。
さみしくなります、なんだか、ずっと、居てくれるような気がしていました。
もしコロナが落ち着いたら、壮大なお別れ会がきっとあります。
そこで何かの拍子に祭壇が崩れて、傾いた棺の中から、いてぇなコラ!って、出て来てください。

こんな伝わるわけもない、寂しい。
どうにかあの世があったなら、長さんに早く来過ぎって怒られて、また女の人と仲良く飲んで、自分と周りを楽しくしていてほしい。

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