『愛でいいよもう』2022年クリスマスSS

※本編読了後推奨

 近年のクリスマスといえば搾取のイベントでしかなかった。
「イイ子の絢くんにプレゼントをあげようねぇ」と「可愛いサンタさんはどんなプレゼントをくれるのかなぁ」の主に2パターンがあったわけだが、そんな爛れた“性なるクリスマス”を過ごしてきた俺にとって、今年は人生初の彼氏と過ごすクリスマスということになる。
 それが問題なのである。
 普通のクリスマスってどんな?それは一体、なにをしてどのように過ごすの?
 まぁ、ヤるだろ。それはマストだろ。この日にヤんないでいつやるの?って日だろ。
 じゃあその前後にはなにがあんの?
 ホテルでディナー?現在粛々と謹慎中の身ですけど。
 じゃあおうちでチキンとケーキ。悪くない。いかにもって感じで。
 で、アマプラでダラダラ映画とか観て?いや観たいもんは別にないけど他にすることもねぇし。音楽とかかけちゃう?ムード作っちゃう?そんでそのまま流れで……何かを忘れている気がする。
 クリスマスってそんなもんだっけ?だっけっていうか前例がないので思い出すも何もないわけだけど。でもこれまでドラマや映画の中で過ごしてきた「恋人たちのクリスマス」っつったらもっとなんかこう……あっただろ、もうひと盛り上がりが。
「ほら、アレだよ、プで始まる」
 プ……プレイ?いいかげんそっちの思考に走るのやめろ俺。
 じゃあ……プロポーズ?さすがに気が早いだろってアホか。
「…………プリン?」
「本気で言ってる?それなんかの隠語だよね?」
 なんのだよ。
「分かりません」
 目の前でクソデカ溜め息をついた社長が、哀れみを浮かべた目で俺を見る。なんで目の前に社長がいるかというと、謹慎中に事務所の雑用としてこき使われているから。
「プレゼントでしょ」
 ……ぷれぜんと。
「はぁ、可哀想。身体でばっかりサービスすることに慣れちゃうとひとってこうなっちゃうんだなぁ」
 その言い草はいずれパワハラかモラハラでこのひとを訴える際の証拠としてしっかり覚えておくとして。
「プレゼントっていうのはアレですか。アクセサリーとか時計とか限定コスメとかいう奴らのことですか」
 ありったけの知識をかき集めてこれ。木龍にクリスマス限定コスメをやってどうする。
「エッチな下着とかエッチなオモチャとか」
「そういうのはいいです」
「僕はいちばん嬉しいけどなぁ」
 乱れた性生活を送っているとひとってこうなっちゃうんだなぁ。このひとの私生活とか知らんけど。
「でもなにか用意するなら早い方がいいんじゃない?今日イブイブだよ」
 そう、もう今は23日の夕方。このあと木龍のおうちに一緒に帰ってそのまま土日を過ごす予定。
 早い方がっていうか、もうすでに手遅れ。
「……来年考えます」
「来年まで続けばいいね」
 デリカシーのない発言の直後、出先から戻った木龍が俺を迎えに来た。

 その翌日、クリスマスイブ。
 結局ぐだぐだ考えてしまうのが嫌になって木龍に正直に言った。
「プレゼントないんだけど」
「俺も特に用意してないが」
 あっさり返されて拍子抜けした。ないのかよ。いやいいんだけど。
 なんだ、なくていいのか。
「昨日から上の空だったのはそのせいか?」
「……一応気にはするだろ」
 昨日まで思い出しもしなかったことはさすがに黙っておく。
 木龍はちょっと笑って、テーブルの上の容器を開けた。木龍の家の近くの、前から気になっていたイタリアンバルがクリスマスメニューのデリバリーをやっていたそうで、予約しておいてくれたのだ。いつの間に。
「お前はこうやってしっかり根回ししてんのに」
「他に言い方がないのか。もっと食べ応えのある肉とかの方がいいかとも思ったんだが」
「……美味そうだからいい」
 ピザ以外はなんかよく分かんないけど小洒落てるしとにかく全部美味しそう。
「それにこれはプレゼントじゃないだろう、俺も食うんだから」
「そうだけど、しっかり前もって予約とかしてんじゃん。ソツがねーじゃん」
 俺のイジケぶりが可笑しかったのか、木龍は苦笑しながら俺の下向いた口角を親指でクイクイ押し上げた。
「お前、俺がプレゼントをもらえなくてヘソを曲げるように見えるのか」
「……見えねぇけど」
「正直、俺もなにかやった方がいいのか考えたんだが、思いつかなかった」
「俺も別になんか欲しかったとか思ってねーし」
 ならいいんじゃないか。と軽い調子で言う。
「いいのかよ」
「現状なにか不満はあるか?」
 美味しそうなごはん、冷蔵庫にはケーキ、隣には木龍。
「ない」
「俺もないな」
 グラスに注いだシャンパン(ノンアル)で乾杯した。甘い気泡が喉でパチパチ弾けてくすぐったい。
 でももっとくすぐったいのは、喉よりも下の方。
 人の気も知らねーでさっそく食いもんをつつき始めた木龍の頬に不意打ちのキスを見舞う。そして何事もなかったようにフォークを手に取ったけど、そのままスルーとはならず。
 美味しいごはんは、そのあと一旦お預けになった。

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