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疎遠になった友達にメッセージを送るのは元カノに連絡するのと同じことだ。

疎遠になった友達の誕生日だった。
疎遠になった理由としては、
価値観の違い…
のようなものだった。

彼女は物事を規定する境界線が明確で、
私は物事を規定する境界線が曖昧だ。

例えば、男と女、みたいに。
彼女の中には絶対的な女や絶対的な男
それしか存在していないみたいだった。
私はそのどちらでもないので、心底戸惑った。

自身のことを伝えたら、
彼女も戸惑っていた。
キャパオーバー、といったところか。
それでも彼女はその優しさのために、どうにか理解しようと頑張った。
嬉しかった。
ある時、私の性質について、
「言わせてごめんね」だったか、
「聞いてごめんね」だったか……
そのようなことを言われたときに、ひどく悲しくなった。

私の性質は、打ち明けた人を申し訳ない気持ちにさせるくらい、可哀想なものらしかった。

もちろん彼女に悪意がないことは分かっている。たっぷりの優しさと愛情とが、ちょっと違う風に現れただけだ。

ここで、じゃあ何て返せば良いんだよ、と言う人も出てくるかもしれないけれど、きっと人によって模範解答は変わるから、私の意見は参考にならない。
強いて言うなら、「ごめんなさい」じゃなくて、「ありがとう」と言った方が、その人の性質を受け容れているニュアンスが伝わるかもしれない。
そのくらいの言葉の違いに鈍感な方は、この記事の趣旨を理解できない可能性があるので、どうぞここらで、ご飯を食べたり、中断してた片付けを再開したりして下さい…ここまで読んでくれて、本当にありがとう。

だんだん連絡を取らなくなった。
よく遊ぶ友達の中から、彼女の姿は消えていた。
私たち、いつから友達じゃなかったんだろう?

居心地が良かった。
何を話しても会話が弾むし、ちょっとしたおふざけで弾けたように笑い合える。
沈黙も貴重な時間だし、たくさん美味しいものも共有した。

二人の生活環境が変わってから、
お互いの変化を感じ取っていたと思う。

彼女は教科書通りの、世間では極めて正しいと判断されやすいところに論拠を持った。
私は、教科書から逸脱した、世間では惜しくもまだ認められにくいところに論拠を持った。

どちらも正しくて間違っている。

私たちはどちらも正しかったけれど、互いを受け容れようとしなかったところは、間違っていた。

言わないよりは、言った方が良い。
私たちは何かあるたびに話し合いをしたが、互いに不満を溜めるだけに終わった。
私たちは、疲れていたんだと思う。

めちゃくちゃ仲が良かった。

“一生よろしくね”

そんな言葉が行き交ったほど。

永遠の誓いほど脆いものはないと思った。
呆れて笑いがこみ上げてきてしまう。


今日、彼女が誕生日を迎えた。
疎遠になりつつも、私はまだ仲の良いお友達のつもりでいたので、短いながらに素直な気持ちを綴りメッセージを送った。

内容としては、私と一緒にいなくても、あなたがあなたらしく、幸せでいられることを祈っている。というのをもう少し婉曲して表したものだった。
返事はまだない。

滅多に浮上しない彼女のSNSに、新しい投稿があるのを見つけた。

最近はプレゼントだけでなく、誕生日には画像を送りあったりするらしい。
作製してもらった画像に、言葉を添えてSNS上でお礼をする。二人でやればいいものを、わざわざ公の場に載せるということは、”見てほしい”という気持ちの表れではないのか。知らんけど。

“一生の友”

もうそこにわたしの面影はなかった。
私の他に、一生を誓い合った友達がいるのなら、素晴らしいことじゃないか。

私はメッセージを送ったことを少し後悔した。(でも送らないのは余計に気まずいのでたぶん時間が戻っても私は送っている。)
そして、思った。

元カノに連絡してる気分だ。

この罪悪感と使命感。

訳が分からないけれど、私はふと、そう思ったのだ。

何が言いたかったかというと、
友達と恋人って、やっぱり何処か似ている気がする。同じものなのかもしれない。
私は彼女とキスもセックスもしていないけれど、
その付き合い方はまるで恋人だったじゃないか。

恋人には明確な別れがある(自然消滅もあるけれど)。でも友達は、どうやって別れたらいい?

「私たち、別れよ」

って?もちろんこれも一つの手だ。
友達と縁を切りたい時の、決まり文句として一般化したらいい。

でも、私たちにその選択肢はなかった。

たぶん、これが最後の連絡になる。

別に
「ヨリを戻そう」
なんて、どちらからも言わないと思う。

ここが、私と彼女との、終焉なんだと思う。

「さよならをいうのは、わずかのあいだ死ぬことだ。」——レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』(清水俊二訳)


なんてね。私たち、さよならだ。


←これ実は、猫じゃなくて、狼なんです。