あの夜あなたは私に首を絞めさせ、その後、鼓動を確かめるように優しく私の首を絞めました。 互いの腕で互いの首を絞める。 喉元に押し隠したはずの弱虫の本音が顔を覗かせないように。 互いの口を互いの口で塞がなくても済むように。 20240303
私が飛び込んでくれるのを待っている人に対して飛び込んでいくことは相手の希望に期待しそれに私自身の希望の責任を押し付けることだと感じてしまう。 私が一番恐れることは信じる人間から裏切られ孤独のどん底に追いやられることに他ならない。 それを避けるためには孤独の浅瀬で仇波に時折引き込まれそうになりながらも懸命に耐え忍ぶしかない。 海が母なるものとは限らないのだから。 信頼はしたいが盲信はしたくない。 あなたを信じたいから私を信じて見せて。 あなたを信じたから私を傷つけないで。
どこか遠い国に行きたい。 その国では相手の同意を得た愛情表現は罪にならない。 その国では自ら以外の愛情表現には興味も関心もない。 その国では思いついた時に海を眺めにいくことができる。 その国では私はあなたと自由に抱き合うことができる。 そんな自由な国があったとして、それでも尚私たちは私たちの関係を保つことができるでしょうか。 その遠い国の上にも鈍色の雲はかかっているのでしょうか。 20240818
例えば誰かとの関係値を示すゲージのようなものがあるとする。 それは人ごとに友人、恋人、兄弟、敵など、大まかに振り分けられたゲージが同時に存在し、その数値はその人との事象や想像による独断的な評価が作用して上下する。 自分のゲージは決して相手には見えないし、相手のゲージも同様に見ることはできない。 律儀な、あるいは退廃的な人間にとってこの複雑なパラメータの管理はひどく億劫なものである。 なぜならあらゆるゲージが同時に存在することにより、ある人間が多くの役を兼ねることもあるし、
あなたに会いたいと思うから会いたくないし、離れていたいと思うから知りたくなる。 どんなに目を背けても私の思いが変わらなければ、相手の態度や言動は私に影響を与えないのです。 愛であり呪いなのです。 20240810
何かがもう少しで掴めそうな気がする。 しばらく忘れていた何か。 ずっと前に落としてきた何か。 歪に欠けた穴ぼこにはまる何か。 あなたに伝えたい感謝は言葉にも態度にもできず、伝わることのない文章をここに書き捨てるのです。 20240807
あなたを遠ざけたくて投げた面倒な言葉も、結局はぐるりと回って私の元へ返ってくる。 あなたから返答があろうと無かろうと、あなたが思っているであろうことを私が勝手に想像してそれを返答だと解釈する。 私が投げた言葉によって私はまた追い詰められる。 利口なあなたは私がなぜ面倒な言葉をあなたに投げたのか分かるでしょう。 答えてよ。 20240806
ついに私はたまらなくあなたに懇願をしました。 会いたいと。会いに来て欲しいと。どうしても今日、あなたに会いたいのだと。 私が考え得る限り合理性や生産性が何も見つからない、現代社会において忌むべき関係で、私があなたを求めてもいつか訪れるその最後には不幸せがもたらされるだけなのに。 終わりが来ることは、そのこと自体は不幸せではないはずです。 人間が生を受けてそれが終るときには何も残らない、その全てには意味が無いと定義しようとするならば、その人間は自ら生きることを放棄しなければ
私が産んだ運命論者はその幼稚とも言える原始的な真理をもって、ついに私を攻撃してきました。 真っ当さや正しさなどこの世には存在しない。 だから大きな流れに身を預けるしかない。 それに抗うには相当の代償と苦労が必要だ。 そんなつまらないことを言う側は私のはずだったのに。 満たされれば満たされるほど何かが足りないような気がする。 誰かが持っているそれが羨ましく感じる。 少し前までは納得出来ていたのに縋って確かめたくなる。 まるで一人だけ取り残されたみたい。 あなたは帰りの
一人で夜を過ごしたくなくてあなたを誘う。 誰でも誘える時にわざわざあなたを誘う。 きっとあなたは真摯に話を聞いてくれるから。 きっとあなたは私に優しくしてくれるから。 他の誰かで生じた寂しさをあなたで埋める。 あなたもそれに価値を見出してくれますか。 20240429
夜空に輝く月のように見えたあなたが、今は宙にぽっかりと浮かぶ黄色い風船のようです。 あなたが失ったものは何でしょうか。 あなたが得たものは何でしょうか。 あなたを鈍い風船に見たい私の心の底の底が、ただの純粋ないたずら心でありますように。 20240429
私はあなたとの親密な会話をもっぱら避けるようになりました。 あなたを思う私の内に湧くのは苛立ちであり、親心なのです。 親心は自分で解釈が出来るので良いのです。 問題は苛立ちで、その原因の源泉がもし嫉妬であったならば、それは即ち私という人間そのものの未熟さとなり、最悪の場合、その親心すら自己防衛のための言い訳に過ぎない可能性すらあるのです。 わたしは今のあなたに以前ほどの魅力を感じません。 本心でしょうか。 自己防衛でしょうか。 20240320
自分の出した手を後から変える。 そうすれば相手に負けることは無くなるから。 自分の本心を隠して相手と接する。 そうすれば相手に負けることは無くなるから。 そのうち最初に出した手と後出しした手のどちらが本心かわからなくなってしまった。 私は勝負に勝ち続けていたつもりだったけれど、本当は勝っても負けてもいなかったのかもしれない。 正しく言えば勝負すらできていなかったのだと思う。 あなたはきっと後出しをする必要なんてないんだよね。 だから眩しく目を細めたくなるんだ。 20
その心配がいかに杞憂であるかを私は先ずあなたに伝える必要がありましょう。 成程あなたの仰る孤独と救済が作り出す習慣とその効果には一つの真理が含まれているでしょう。 その真理について私が申し上げることは特にありません。 もし私があなたに申し上げることがあるならば、その真理から抜け出し、大人になろうという決意及び決断の脆弱さへの非難となりましょう。 あなたのその行動は、同じ種類の暗がりの中で孤独の立場から救済の立場に移ってみたかっただけの事なのではないかと思わざるを得ません。
「中立的な独立機関でいて欲しい」 言われずとも、あの頃の私はとびきり優秀な独立機関であったと自負しています。 ただしそれも天秤の片方の受け皿にのみ注意を払って調整すれば良かった頃のお話。 天秤は両方の受け皿に重りを乗せるから天秤なのであり、もう片方の受け皿の内容や重さを自由に変えてしまえば、それはもはや天秤としての機能を失っているのです。 今、私の左手にはあなたが、右手にはとても大事な友人が釣り合いをとって掲げられています。 片手を下げれば相手が上がる。逆もまた然り
キーボードを打つことに没頭する。合間。 お客様と電話をする。合間。 思いがけないミスを見つける。合間。 日々のふとした合間に私はあなたとの夜を思い浮かべてしまいます。 飾らずに言えば、あなたと過ごした時間はやはりとても楽しかったのです。 きっとあなたもそうだったし、だから今、あなたは分かりやすく狼狽えているのでしょう。 でも私はあなたに手を差し伸べません。 あなたがいるその暗がりの中に差す光に自ら気づき、自らの意思でそこから出てきて欲しいのです。 それがもし叶ったなら