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植栽ミントはテロたり得たか

お腹の調子が悪い。食欲がなくて昼休みを丸々持て余してしまったので、会社近くの公園あたりを散策することにする。
こんなに暑いのに公園にはかなりの人がいて、おにぎりをかじるでもタバコを吸うでもなく、食事を買い求めてコンビニへ向かうでもなく、一切の目的もなくブラブラしているのは私だけのようだった。石に腰掛けてタバコを吸うお兄さんに不審そうな顔をされる。

ランチのテイクアウトに力を入れる店がまた増えたのか、小さな傘とテーブルで簡易的に設置されたお弁当売り場が目立ち、真昼間からお祭りみたいで気分がよい。

裏道の小さな公園の脇で野良の多肉植物を発見する。日当たりの良い一等地だけど目立たないようにこぢんまりと群れをなしていた。どこでも見かける、雑草並みの繁殖力を持った万年草だ。名前は未だにわからない、名づけられてさえいないのかもしれない。調べてみても植物好きのおじさんのブログで、側溝に生えていたので「側溝」、トンネルで見つけたので「ネルトン」とか勝手に命名されている情報しか出てこなかった(かわいい)。
少しだけ採取させてもらう。

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夕飯後、採取した謎種を植えられそうな場所探しのお散歩をする。地植えしてもりもり育つ様子を見たかったので、近所の川の近くをあたってみたけど雑草が多すぎて埋もれてしまいそうで、30分ほど歩いたのに結局帰ってきてマンションの裏にこっそり植えることにした。
殖えろ殖えろ、雑草の力を見せておくれ。


そのアホみたいな繁殖力を利用して、嫌いな隣人宅の庭にこっそりミントを植えるミントテロなるものがあるほどにワルにされがちだけど、私にとってミントは幼い頃住んでいた家での静かな夏の夜を思い出させる。
庭で殖えに殖えたミントを刈りまくってたっぷり袋に詰めてバスタブに浮かべるだけのミント風呂。お湯に押し込んで上がってくる気泡をじっと見つめて、野生的な葉の香りを肺が許す限り吸い込み、また浮かべる、ただそれだけで時間が過ぎた。
バスタブを染める色が薄い薄いミントから蛍光オレンジやつまらないブルーに変わる頃には、もう窓を開けては眠れない。北国の夏は短い。

またあの夏があってもいい気がするから、ミントテロならいくらでもしてほしい。レモングラスも混ぜてくれるとありがたいけど、マンションではどうせ誰もやってくれない。
くそ暑い。クナイプ買ってこよ。

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