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どうして花を育てるの、未来なんか見てないくせに

伸びに伸びた植物をいくつか刈り取ったら、賑々しかった大鉢に荒廃感が漂ったのでいっそ全部切りそろえて植え替えることにした。
もう疑いようもなく夏になってしまったので本当は植え替えに適さないけれど、貰いものの新芽たちも後ろに控えていたし、そもそも今まで適不適を忠実に守って植物を育てたことはなかったなと思い良しとする。
弱っていそうなもの、伸びすぎて収拾がつかないもの、徒長しているものなどなど、全部根をばつんばつんと切っていく。昨日と同じことをしている。

うちで殖えたものたちを彼にあげたらハマったらしく、自分で好きなものを買ってくるようになった。ネットでも購入しているようで、昼頃届いたのは立派に育ったハオルシアだった。はじめての品種に興奮しつつも、彼はわりとビビりなので土の入った器だけ寄越して私に植えさせた。
こんだけ根が出ていたらどこに植えたって余裕で根付くだろう、聞いたことない名称だけどこういうタイプならもりもり育ってすぐ子株を出すかなと考えながら、いつもの調子で器に合わせてばつばつ根を切っていたら彼は恐ろしそうな顔で私を見ていた。
新芽を出した葉もおまけでたくさん入っていたのにそれはほとんど私にくれた。ここから大きくなるのを見るのが楽しいのに。
彼はそういうのには興味がなくて、きちんと形を成したきれいな親株しか求めていないみたいでわりと冷酷だなあと一瞬思ったけど、淡い望みを孕んだ未来なんてもう見たくないのかもしれない。

骨は海に撒いてほしいと家族に伝えているらしい。どの海にもいるから墓を拝むな海を拝んでくれ、頼むから俺を足立に閉じ込めるな。
粉々になって海に散らばる彼を思った。沖縄にいる彼、知らない国にいる彼、魚に食べられる彼、足立に閉じ込められる彼。
あ、どうしたの、なんで泣いているの。
寝転がっていたので涙は全部耳に流れこんでしまっていたけれど、わずかに水分を残したまなじりを彼が撫でる。
変な話したね、ごめんね、ごめん。
そう言うくせにいつもより乱暴に抱いた。

一緒に遠くに行こうとか心中しようとか言っておきながら結局のところ私は未来をまだ夢見ちゃっているのだ。彼とおなじ場所になど初めから立っていなかった。
植物、いつか全部きみにあげるよ。
うわあほんとに冷酷だね。

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