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地下、蜃気楼の穴

スッポンエキス、サメ軟骨、ウイスキー、ぬいぐるみ、のあたりだと認識していたけどさっぱり辿り着けずにいる。
未だ馴染めない地下街を歩いて歩いて、ジュンク堂の入り口をやっと見つけたのはつい2週間ほど前だったと思うんだけど。

1度目は地上のビル入り口から入った。久しぶりにインターネット越しではない生の本の群れを楽しんだあと、ふと、ここは地下なのだから地下街への出入口があるのではないかと閃き徘徊してみれば、なるほどというか当たり前にそれはレジ横にあった。
おお、ここに繋がっていたのか。
見知った道だが妙に薄暗く見える。短かな階段をそっと踏んだ。

地下街はいつも暗く湿ってだだっ広くて、深い森を思わせる。景色も似ていてここはさっきも通った気がする。
だからぽっかりと青白く発光したその穴の出現はあまりにも突然で、2度目の入店は狐につままれたようだった。
この前出てきた穴はここじゃなかった気がするけれど、確かに特設コーナーとレジが見える、そう、あそこから出てきたな、うん、うん。釈然としないまま本を買う。

そのあと何度か店を訪れたが、思っているところとは違う場所にいつも穴は現れて、出るとまた想定外の場所に放り出される感覚が拭えなかった。


「ビアードパパの横から入れるの知ってる?」
毎度こんなに困っているのに他にも穴があるのか。というか地下街にビアードパパの存在すら認識していなかった。森は想像以上に深い。
彼のあとを追うとカスタードとクッキーシューの懐かしい香りがしてくる。賑やかな色合いの店舗の奥、目を凝らすと似つかわしくない暗く細い道が見えた。
穴だ。
そこは間違いなくこの間徘徊した参考書コーナーだった。しかし、はて、そこにある自動ドアからビアードパパは見えただろうか。だけどビアードパパ側から覗くいま、確かにジュンク堂の穴はそこにある。

理解はしたが府に落ちないまま店をあとにする。
「今度はビアードパパの匂いでジュンク堂見つけられるかな」
言った瞬間改札から溢れた人人人に押し流されて、あっと振り返ると、甘やかな香りも蜃気楼の穴も立ち消えていた。

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