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映絵師の印(えしのしるし)

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#えしのしるし

映絵師の極印(えしのしるし)第2話 前編・弐 -開戦-

そんな折、猫友塾に一報が届いた。 「皇宮映絵会」の開催についてである。 先の抗争により、武力ではない、映絵による世の平定が重要と見た皇帝は、より一層発展と強化を目的にして、自らの目で映絵を見て、その優劣をくだし競わせる大会を発案したのである。 当然、猫友塾はその大会の話題でもちきりだ。そこである生徒が、 「いやぁ、うちは不利だよね、Dハンズの方は、犬剣が出てくるんでしょう?」 「虎先生も厳しいんじゃね?」 「かもなぁ~」 ばんっ!と机を叩く音がした。三毛だった。 「何言

映絵師の極印(えしのしるし)第二話 前編・壱 -不動-

ーーー時は変わり 夏の日差しが眩しい映絵町ではそろそろ祭りの準備が始まろうとしていた。 この時期になるといつも噂されるのが「皇宮映絵会」の開催だ。 「皇宮映絵会」とは 時の皇帝が開催する催し物のひとつで、この街の映絵の芸術的な素晴らしさや文化衰退を防ぎ、後世に残していこうというのが目的のひとつである。この町の例大祭で開催されることが多い。 しかし、10年前の大抗争終了時以来、この映絵会は開催されていない。 なぜ開催されないのか、その理由は未だ謎のままだ。 夏用の洒落た

映絵師の極印(えしのしるし)第1話 後編 -蚯蚓-

襲名式前の楽しい時間を過ごす炎。ふと天窓から覗くと外はすっかり夜の闇に覆われていた。もちろん炎は陸の言葉を忘れてはいなかった。 「お、もうこんな時間か...女将おあいそや」 酒に強い炎だが女将がくれた、この一時に油断していた。 「あら ツケでいいわよ?」 「いや、俺は借金はせえへん主義や」 「借金じゃないわよ、次への約束よ」 「へっ、物は言いようやな」 そう言いながら炎は酔いざましに、先程出されたチェイサーの水を飲み干す。グラスに残った氷がカランと音を立てる。 「おた

映絵師の極印(えしのしるし)第1話 中編 -油断-

初代犬剣の二人の息子「炎(えん)」と「陸(りく)」 まるで怒髪天を衝くような毛の逆立ちと、背中に真っ赤な色が燃え盛る炎のように見える毛並みから名付けられた兄の「炎」 端正な顔立ちと、父親譲りの器用な手先を持った、大地のように揺るがぬ集中力を持つ、背景画家の弟「陸」 二人は子供の頃から父親の描く映絵を見て育ち、やがて自分達で描いて遊ぶようになった。 特に炎の描く映絵は秀逸で時に周囲を唸らせる程の物もあり、陸はそんな兄が自慢であり、「自分は”炎にい”の絵の周りに添えるものを描