見出し画像

アルバムレビュー - Tatsuhisa Yamamoto『dokoniittemo / itsumadetattemo』

即興やジャズから歌ものの伴奏まで幅広く演奏し、七尾旅人やジム・オルークのバンドでは長期間に渡り演奏を続けているドラム奏者の山本達久による2020年リリースの作品。bandcampでの自主リリースでデジタルアルバムのみ。


作品ページを開いた時点で「テナー・サックス: 藤原大輔」のクレジットが見えたのでサックスとドラムによる即興~フリー・ジャズ的な内容を想像したのですが、実際聴いてみるとアンビエントやドローンに近いゆったりとした電子音作品でした。

生楽器の音も用いられているのですが、1曲目では参加しているサックスの音色はぼーっと聴いているとどの音がそれなのか断定できないほど電子音に馴染み抽象化されていますし、2曲目では打楽器やドラムの演奏も入りますがそれは決して前面に出るようなニュアンスではなく、持続的なサウンドの中に微かに耳をつつく要素を付加するような手つきというか、複数の音が重なり合った総体的な響きを見通して演奏されているような印象で、異なる楽器から発されたサウンドどれもが異化ではなく融和や溶解を目指している作品といっても大袈裟ではないように思えます。

電子音の扱いに関しては(収録音量が小さめなので気付きにくいかもしれませんが)音の立ちあがりや消え入りのニュアンスに長年多くの場面で活動を共にしているジム・オルークの電子音楽作品に通じるものを感じたりもしますが、例えば音のレイヤーは “偏執的に音を重ねることで複雑な響きを組み上げていく” というよりは “充足感を失わないギリギリのラインまで音を削いでいく” という意識で調節されているように聴こえ、素朴でありながらも独自のバランスを感じさせます。

また、場面の移り変わりや一つの音を繰り返し発する際のゆったりとした時間の使い方や間なども魅力的です。私は山本達久のドラム演奏では、それが静かで散発的なものであろうと激しく手数を詰め込まれたものであろうと、そこから変わらず “まだギアを残してる” ような余裕が感じられる気がしてそこに特に惹かれるのですが、本作の時間の使い方から感じられる懐深さみたいなものは、そのドラム演奏から感じられる余裕と通じるものなのではないか、となんとなく思います。


表面上とても物静かで、展開も劇的ではなくいつの間にかといった風情で行われる本作は、集中して意識を向け続けなくとも楽しめるいわばアンビエント的な価値を存分に持った作品ですが、注意深く耳を傾けてみるとこれまで述べてきたような内容を含め様々な面から “自身にとって自然に馴染むバランスを探った思索の跡” が聴き取れるように思いますし、作品全体をそのような繊細な作業を経た美しい結晶物として様々な角度から眺めるような聴き方にも応えてくれる強度を持っています。

ゆったりと、かつ慎重にシンセとサックスの音が紡がれ反復していく1曲目、そしてドローンと打楽器/ドラム演奏がさりげなく、しかし見事に噛み合わされた2曲目(ラストの景色が明るく開けていくような展開とそれをドライブさせるしなやかなドラム演奏の素晴らしさ!)、どちらも再生音量からそこに向かう自分の意識まで様々な塩梅を試すように繰り返し聴きたくなりますし、聴くほどにこの作品に結びつくまでの試行錯誤だったり、作品の持つ傾向の意図を知りたくなります。例えばこの作品は本人としてはどういう風に聴かれることを想定して作ったのか(収録音量が小さめなのはアンビエント的に聴いてほしいから?)など気になるところです。

個人的にはドラム奏者の作る電子音楽って結構印象に残る好きな作品があるんですが、またそこに素晴らしい一作が加わったなという感じで、とても嬉しいリリースでした。



最後に本作と合わせて聴くと面白そうなドラム奏者(もしくは元ドラム奏者)による電子音楽的な作品をいくつか貼っておきます。

・Eric Thielemans『Aural Mist』

ジャズや即興の分野で活動しながら実験的なパフォーマンス/録音を残していることで知られるベルギーのドラム/パーカッション奏者のエリック・ティールマンスの2015年作。フィールドレコーディングやガムラン楽器のような音色も聴こえてくる没入度の高いアンビエントです。


・Angelo Petronella『Sintesi da un diario』

70年代にドラマーとしてキャリアをスタートさせ、イタリアのアンダーグラウンドシーンの伝説的なバンドInsiememusicadiversaでもドラムを演奏していたAngelo Petronellaの作品。バンドでの活動以後は電子音楽の分野へ転向し主に教育者として音楽に携わっていたようですが2000年以後にいくつか作品が発表されておりどれも素晴らしいです。


・Joe Talia『Tint』

Oren Ambarchi、James Rushford、石橋英子などと共演しているドラマーJoe Taliaはテープ編集やエレクトロニクスを用いたソロ作品を寡作ながらいくつか(おそらく2つ?)発表しており、研ぎ澄まされた音響を聴かせてくれます。最近bandcampにアップされた2006年作のこちらも必聴です。


・RJ Miller『RJ Miller Trio II』

これはドラマーによる電子音楽作品というより、ジャズドラマーによるシンセや電子音を取り入れたリーダー作って感じですが、山本達久の作品と近いタイミングで聴いたこともあってか少し通じるものを感じました。


・Orphax『Live Circles』

そういえばOrphaxも元ドラマーなんですよね。レビューはこちら


・Merzbow『Sphere』

最後はメルツバウで。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?