マガジンのカバー画像

あ だ ば な ─ 徒 花 ─

20
養老まにあっくすエッセイ集②
運営しているクリエイター

#競争

客観性は「真理」か

【書評】『客観性の落とし穴』村上靖彦=著/ちくまプリマー新書 𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  毎日スーツを着てパンプスを履いて仕事に行くことがどうしても無理──そういう理由で一般企業への就職をあきらめた女性がいる。「そんなことくらいで」と思うだろうか。「努力が足りないのでは」と思うだろうか。しかし、多くの人にとって何でもないことだとしても、彼女が就職を断念しなければならないほどに苦痛と感じるのであれば、少なくとも彼女にとっては、それは耐え難い苦痛なのではないか。  客観性

経済は自由でいいのか

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  自由・平等・博愛──これは言わずと知れたフランス革命のスローガンである。十九世紀ドイツの思想家ルドルフ・シュタイナーは、これを社会を構成する三つの機能に当てはめ、「社会三層論」を提唱した。三つの機能とはすなわち、法と精神と経済である。法律は平等の原理の上に成り立っている。法の前では誰しも平等でなくてはならない。精神は自由の原理に拠っていなければ ならない。何人も精神においては自由に思想することが認められなければならない。では、経済は? 経済の