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あ だ ば な ─ 徒 花 ─

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養老まにあっくすエッセイ集②
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#読書・書評

客観性は「真理」か

【書評】『客観性の落とし穴』村上靖彦=著/ちくまプリマー新書 𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  毎日スーツを着てパンプスを履いて仕事に行くことがどうしても無理──そういう理由で一般企業への就職をあきらめた女性がいる。「そんなことくらいで」と思うだろうか。「努力が足りないのでは」と思うだろうか。しかし、多くの人にとって何でもないことだとしても、彼女が就職を断念しなければならないほどに苦痛と感じるのであれば、少なくとも彼女にとっては、それは耐え難い苦痛なのではないか。  客観性

『君たちはどう生きるか』を、僕たちはどう読むか

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  白状すると、僕はこの本に不当な先入観を持っていた。しかし、それには歴とした理由がある。ご存知のように、岩波文庫はジャンルごとに色分けされている。外国文学なら赤、日本文学なら緑といった具合だ。そしてこの『君たちはどう生きるか』は青である。青は哲学や思想──カントとかヘーゲルとかショウペンハウエルとか、日本人なら西田幾多郎とかだ。だから僕は、「この本は偉い先生が人生の意味を説いたお堅い本に違いない。そんな大きな問題が文庫本一冊でわかってたまるか。

人生に早送りはない

【書評】『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ──コンテンツ消費の現在形』 稲田豊史=著/光文社新書 𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  読む前は私も、素朴に早送り視聴を否定していた。たとえば、10秒の沈黙シーンがあれば、それは沈黙であっても、意味のある10秒なのだ。それを飛ばしてしまうというのは、作品に対する〝冒涜〟ではないのか。  しかし、読むにつれて少し考えが変わってきた。なぜ、いまの人は早送りで観たがるのだろう。それを考えるうちに、だんだん早送り派の気持ち