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あ だ ば な ─ 徒 花 ─

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養老まにあっくすエッセイ集②
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2024年4月の記事一覧

私たちは何のために働いているのだろう

 戦後ドイツの文学にはKurzgeschichteと呼ばれるジャンルがある。これは日本語に訳せば「短篇」「ショートストーリー」としか言いようがないのだが、本当に2〜3頁しかないのである。とりわけ、ノーベル賞作家であったハインリヒ・ベル Heinrich Böll (1917-1985) の作品は人気があり、数多くのKurzgeschichteを残した。今日はその中から、私のもっともお気に入りの一篇を紹介したい。  とはいえ、この作品は本邦未訳のため、以下は筆者の拙訳であること

ファンタジーに託して

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  私の書斎には一首の歌が飾ってあります。大学のときの恩師が詠まれた歌で、筆書していただいたものを額に入れて掛けています。こんな歌です。   胡蝶にも   佛果にいたる花の色   隔てぬ梅に   飛び翔りてそ  現実には蝶々が梅の花を見ることはありません。なぜなら、梅が咲く頃には彼らはまだ蛹の中にいるからです。春から秋に咲くあらゆる花々を眺め、そのまわりを舞うことができる蝶々も、梅の花だけは見ることができない。それゆえ蝶々は梅の花にあこがれる