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ま け い ぬ ─ 負 犬 ─

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養老まにあっくすエッセイ集③
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2020年11月の記事一覧

手塚治虫と養老孟司

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  手塚治虫と養老孟司。この二人にはいくつかの共通点がある。第一に、虫好きであること。手塚治虫のペンネーム「治虫」は、オサムシという昆虫の名前からきている。このことは、多くの方がご存知であろう。一方の養老先生は、ゾウムシという昆虫に凝っている。これもまた地味な昆虫だが、蝶とかカミキリムシとか人気のある虫はみんなが持っていってしまうので、あとに残ったのが誰の興味も引かないゾウムシだったと、先生は自嘲気味に語る。しかし、その凝り方が尋常ではなく、やは

コミュニケーション≠言葉

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  私事で恐縮だが、もうじき結婚四年目を迎える。今年は例年より離婚が多いそうで、世間は「コロナ離婚」などと騒ぎ立てた。一緒になりたくて結婚したのに、一緒にいる時間が長くなると離婚するのか。理解に苦しむというか、理解できなくてよかったというか。  夫婦円満の秘訣は会話だとよく言われるが、イラストレーターの和田誠さんは大変寡黙な方だったそうである。その代わりというか、奥様の平野レミさんはあの通りおしゃべりである。それがちょうどいいバランスだったのかも

唯脳論からAI論へ

【書評】『AIの壁──人間の知性を問いなおす』養老孟司=著/PHP新書 𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  コロナが流行する前の講演で、「『遺言2.0』はいつ出ますか?」という質問に対して、先生は「それはわからないが、AIについては書きたいと思っている」とおっしゃっていた。本書は対談の形式をとってはいるものの、ある意味ではこの問題に関する先生なりの総論だと言えなくもない。  いまから三十一年前、先生は『唯脳論』という本を書き、そのエピローグで「脳化社会」というキーワードを提示