困難や運命を受け入れて|板津検校

前回書いた視覚障碍者の集団「当道座」では、盲人に対して読書、書道、算数、音楽、礼儀作法など、さまざまな教育や訓練が行われました。これらによって視覚障碍者たちは手に職を得て自活できるようになってゆきます。
当道座に属した人々の短歌も非常に多く残っており、そこからも当道座がしっかりとした団体であった事がうかがえます。

江戸時代の植山検校江民軒梅之が、多くの検校や勾当(当道座のトップ)の短歌を集めて『謌林尾花末』(かりんおばながすえ)という書物を編集しています。その中から視覚障碍に関わる短歌を紹介していきます。

・東路(あづまぢ)の瀬田の長橋叉ぞふむみじかき老の世をわたるとて
 板津検校『謌林尾花末』

江戸時代に失明した盲人である板津検校の短歌です。
「東路」とは、東国(関東)への道のこと。
「瀬田の長橋」は琵琶湖の東岸に架かる橋で、東海道の五十三次の一つです。
結句の「わたる」は橋の縁語。橋を渡る事と、過ぎ去った時間の流れや自身の運命が重なっています。

一首の意味は「老い先短いこの生で、東海道の瀬田の長橋を2度も踏んでゆくのだなぁ」という内容です。江戸時代の旅は現代に比べて非常に困難なものでした。道に迷ったり、風雨や山賊に襲われることがありました。盲目の身でそれを二度も経験することはより困難だったことでしょう。

しかし作者はそんな困難にもめげずに、人生の残りのわずかな時間の中で再び東国へ下ることを決意しています。
そこには「何かを成し遂げたい」という気持ちがあったからなのでしょう。様々な困難や運命を受け入れて、瀬田の長橋を、そして人生を渡って進んでゆく。歌に遺された作者の姿は、困難に立ち向かう勇気を読者に示してくれます。

#視覚障碍と短歌 #短歌 #視覚障がい

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