道草植物図鑑No.1「ツユクサ」
私が1番好きな草本は、ツユクサです。
「なんて品のある花なんだろう!」が第一印象。
藍染のような濃淡のある青は、
太陽の光を受けて、慎ましやかに輝きます。
"ツユクサ (露草)" という名前も、上品さを感じさせる理由のひとつ。
梅雨の時期に咲くから、とか
早朝に花が咲いて、昼頃には萎んでしまう様子が
朝露みたいだから、とか
いくつか説があるようですが、
梅雨の雨でしっとり濡れる様子も、本当に美しいのです!
こんなに雨が似合う植物、他にいるでしょうか。
そんなどこか儚さを感じる美しいツユクサですが、こいつが意外と策士です!
多くの植物は、花の蜜で昆虫をおびき寄せて
花粉を運んでもらいますが、
ツユクサの花は蜜を作りません。
蜜を作らずに、昆虫に花粉を運んでもらう作戦があるのです。
ツユクサの花をよく見てみると、結構複雑な形をしています。
黄色い部分は全ておしべ。
形の違う3種類のおしべが役割を分担して、昆虫に花粉を運ばせているのです。
まず、1番上の鮮やかな黄色いおしべ
このおしべは、昆虫を花に惹きつける役割を担っています。
簡単にいうと、「おいしいご飯があるよ」と宣伝する看板のような役目です。
そして、中央のおしべ
このおしべは、昆虫に与える花粉を作る役割を担っています。
1番上のおしべに誘われてツユクサに訪れた昆虫は、ここで作られる花粉をご飯にします。
ただ、この花粉は量がとても少なく、生殖能力も持っていない、おとりの花粉です。
最後に、1番下のひょろんと長いおしべ
このおしべこそ、ホンモノの花粉をつくる役割を担っています!
中央の花粉に夢中になっている昆虫の背後から、
そっとホンモノの花粉をつけるのです!
お尻に花粉がついているなんてことは露知らず、昆虫はまた他のツユクサに引き寄せられて花粉をお届けするのです。
可憐な見た目とは裏腹に、とても強かで策士。
このギャップが、かっこよくってたまりません。
また、運悪く昆虫がおびき寄せられなかったとしても大丈夫。
花が萎んだ時に、ひょろんと長いおしべがめしべに花粉をつけ、自家受粉できてしまうのです!
どこまでも用意周到。素敵です!
そして、ツユクサとよく似た見た目の
マルバツユクサも面白い!
見た目は本当によく似てますが、名前の通りツユクサよりも葉が丸みを帯びています。
また、ツユクサよりも花が小ぶりです。
マルバツユクサの大きな特徴は、地中にも花をつけることです!
なぜ?どういうこと?と思ってしまいますが、
マルバツユクサの根を掘り起こしてみると、白く膨らんだ部分が見つかります。
これが閉鎖花という、まさかのお花なのです!
閉鎖花は、その名の通り閉じた花で、咲くことなく地中で勝手に自家受粉して種を作ります。
そして、その種はそのまま土の中で熟して発芽・成長していきます。
ツユクサは、その品のある見た目がとても素敵な植物です。
万葉集でも、儚い恋の歌の中に詠まれているそうで、今も昔も多くの人の心を動かしているのではないでしょうか。
けれど、その見た目だけではなく、
蜜は作れないけれど昆虫に花粉を運んでもらうためにはどうすればいいか、という知恵も含めて美しく、大好きな植物です。
ツユクサ
Commelina commumis
ツユクサ科ツユクサ属
在来の一年草
花時期 : 6〜10月
生育地 : 畑地や路傍
比較的湿った場所を好む印象
マルバツユクサ
Commelina benghalensis
ツユクサ科ツユクサ属
在来一年草
開花期 : 7月〜9月
生育地 : 畑地や路傍
海岸に多いそうです。
出典 : おもしろ植物図鑑 / 花福こざる
身近な雑草の愉快な生き方 / 稲垣栄洋
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