日曜夜7時からのヘッドスパ

日曜夜7時からのヘッドスパが最高すぎた。

自分のご機嫌をとる方法のひとつとして、忘れないうちに感動を書き記しておきたい。「日曜夜のヘッドスパ」は私の育児ライフハックだ。

・・・

5歳3歳0歳との生活が11ヶ月目に突入した。

彼らはかわいい。とてもとても愛らしく、一挙一動はみていて飽きない。あくせく働いていた私にとって、今の末っ子育休は貴重な時間だし、存分に育児の楽しみを堪能したいと思っている。

とはいえ

無性に、ひとりになりたいときがある。穏やかだけど確実に、イライラの波が押し寄せてきて、ふとした瞬間に私の足元を脅かす。やばいやばい、そろそろ「おひとりさまカード」を切らないと……。

けれども、私の自由は夫のワンオペ育児のもと成り立っていて（シッターサービス云々はおいといて）、基本なんでも「いいよ」な夫だけど、育児負担のすくない時間帯に心おきなく外出したい。

でも、それっていつ？

12月某日。通っている美容室のWeb予約画面を開く。年末が近いせいか、週末の予約はすでにいっぱいだ。空いている時間は……日曜日の夜７時のみ。

「夜かぁ……」

家族団らんのコアタイムだよね。うちもテレビ観ながらだらだらしている時間だし。と、予約画面を閉じようとして手が止まった。

「いや、いまのわが家の状況なら寧ろ……あり？」

土日に昼寝しなくなった5歳3歳の夜は早い。巻き巻きタイムスケジュールで、5時風呂、6時飯、7時には寝る準備を整えて、いつ寝てしまっても良いように備えている。

「いけるんじゃ……」

私はおひとりさまカードを華麗にシャッと切った。

平和な日曜夜6時半。昼間おもいっきり遊んだ3歳息子は、カレーを食べ終えたと同時に寝てしまった。食後の5歳娘と夫はすごろくに興じている。0歳は「……あぁぁっ、う！」と奇声をあげながらゴロゴロタイム。私はというと、サザエさん観ながら使った食器を食洗器に入れ、家計簿をつけ、ネットスーパーで1週間分の食材を発注したところで、家事の区切りをつけた。

「そろそろ出かけるね」

夫と娘に声をかけると「はいはーい、いってらっしゃーい」と軽ーく見送られ（少しさみしい）、なんともスムーズに自宅をあとにした。

外はキンと冷たい空気。足早に住宅街を抜けて、提灯がならぶ小道にはいる。湯気と笑い声がほのかに道を照らしている。

ああ、この感じ久しぶり。

足取り軽くスキップしたくなるけれど、大人なので自粛する。そうこう浮かれて歩くうち、すぐに美容室へと到着した。

店内は、昼間の明るく開放的な雰囲気とはうってかわり、灯る間接照のもと静かに響く重低音。時折、向かいの席から会話が漏れ聞こえてくる。

「子どもと離れてひとりになりたくてきました」

担当の美容師さんにそう伝えると、「くつろいでいってくださいね」と雑誌読み放題のタブレットが渡された。ファッション誌を購読しなくなりずいぶんと経つ。モデルさん扮する『金融系バリキャリOL・30日着回しコーデ』を熟読し、コートを翻して丸の内を闊歩する妄想にふけるうち、カットが終わった。早っ！

ヘッドスパに移動する。アロマが選べるとのことだが、横文字の聞きなれない名称に戸惑う。唯一聞きとれた「バニラ」をオーダーし、頭皮マッサージを受ける。目を瞑ると、甘い香りが脳内を支配した。5歳娘がはまっている『ヘンゼルとグレーテル』のお菓子の家に迷い込んだかのよう。いまごろ子どもたちは寝ているかなぁ……。

「……椅子あげますね」

美容師さんの声ではっと我に返ると、時計はすでに8時半。席に戻り、最後はドライヤーで髪をブローして終了だ。私は自分で髪を乾かす作業がとにかく嫌いなので、誰かのブローは至福のとき。すこしの間、またしてもファッション誌に潜り、『六本木外資系ワーママ』に思いを馳せる。うん、年が明けたら私も新しいパンプスを買おう。ヒールをこつこつならして会社に行こう、とそっと決意。

素晴らしいサービスに気持ちよくお金を払い、美容室を後にした。外は一段と冷たくなった夜気。平日は会社帰りの人人人で賑やかな街も、静かな夜に沈む。子どもはもう寝ているだろうし、これからカフェでも行こうかな、なーんて考えていたけれど、まっすぐ家路につく。

玄関のドアをそっと開けると部屋はすでに暗く、そっと寝室をのぞくと、うーんと寝ぼけまなこの5歳娘と目があった。ごめんごめん、起こしちゃったね。「おやすみ」を交わし、お風呂へゆっくりつかることにした。

・・・

実のところ、これまで美容室は朝いちばんに行くものだった。プロに整えてもらった髪型で、一日を気持ちよく過ごしたほうがお得。夜はもう寝るだけなんだし、キレイにしてもらってもなぁ……と感じていた。

けれども

ひとりで過ごした「日曜夜のヘッドスパ」のおかげで、今夜は体も心もゆるゆるにほぐれている。おまけに、髪を洗う必要も、乾かす必要もない。なんだよ、最高じゃないか。

些細な育児ライフハックをみつけ、ほくほくした気持ちで湯船につかる。

あ。次は夜カフェも夜遊びコースに追加しようっと。