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娘と私の「賽の河原」での処世術

幼児がいる生活って、賽の河原で石を積むような毎日だなぁと感じる。先日もこんなことがあった。

保育園に行くまえのひととき、娘(4歳)がペーパークラフトのドールハウスを作っていた。その目は真剣で、細かな部品をひとつずつ組み立てる作業は、賽の河原で不揃いな石を丁寧に積み上げるソレと似ている。

「なぁに やってるのぉ」

そんな姉のもとへ、朝食のパンを食べ終えた2歳10ヶ月の息子が駆け寄っていった。ちかごろの息子は2歳年上の姉のやること全てに興味津々なのだ。
「こないで!」と、姉に邪険にされてもへこたれない。「ぼくも やりたぁい」と、舌足らずな可愛らしい口調ですり寄っていく。

と、一拍おいて

ぐしゃ、びりびりびり、ひゅっ
・・う、う、うわぁぁぁん!!

盛大な擬音のあと、娘の泣きさけぶ声が部屋中に響きわたった。

8割ほど完成していたドールハウスは、壁が倒され、ベッドが引っこ抜かれ、テーブルや椅子がそこら中に投げ散らかされている。その光景はまさに地獄絵図。

きゃっきゃっと笑う小鬼(2歳)をいったん引き離し、泣きつづける娘の背中をさする。

「夜に、ママと一緒に作ろう」
「そろそろお片付けしようか」

背中をぽんぽんしながらなだめているうちに娘は少し落ち着きを取り戻し、お盆のうえにドールハウスの部品をのせて片づけはじめた。

よかった、よかった、随分と気持ちの切り替えが上手くなった。
私も安堵して登園の準備にとりかかる。

しかしここは賽の河原。忘れたころに小鬼が石を崩しにやってくるところ。

う、う、う、うわぁぁぁぁぁん!!!!

娘の泣き崩れる姿が目に飛び込んできて、私は安心するのはまだ早かったことを悟った。案の定、お盆のうえの部品は息子の手によってばらまかれている。

「弟くんから目を離したママが悪かった!一緒に片づけちゃおう」

きゃっきゃっと笑いつづける2歳児をベビーカーに固定し、私は秒でドールハウスの部品をかき集めてお盆にのせる。
それから、空気と化した0歳児を忘れないように抱っこ紐に収め、しくしく泣く4歳児の手をとり保育園に向かった。

結局この日は、保育園に着いても娘は泣いたままだった。どうしたの?と尋ねる担任の先生に事情を伝えて、私は保育園を後にした。

* * *

幼児との生活は、片づけた先から散らかっていく。

モノひとつ落ちていない部屋、整理整頓されたおもちゃたち。テーブルのうえはすっきりと広く、空気すら清々しく感じる――という状態は長く続かない。

どこからともなく小鬼たちがやってきて、おもちゃ(石)を「広げ」「投げ」「隠して」いく。それも一日に何度も。

レゴやラキューはまきびしの如く床に散らばり、パズルは引き戸の隙間に押し込められ、絵本はご丁寧にも高く積み上げられている。
彼/彼女らが去ったあとは、「よくもまあ、こんなに部屋を散らかせるものだな」と絶望を通り越して、さすが小鬼…と感心すら覚える。

私は「モノを整理し、視界から消しさりたい」という欲求がDNAにインプットされた人間なので(趣味はテトリス)、小鬼との相性は最悪だ。すぐに崩されると分かっていても、賽の河原の石を拾い、丁寧に積み上げたいという衝動にかられてしまう。

そこで、自分の気持ちとこの現状に折り合いをつけるため、実践したことがある。

それは、

「石を積み上げるに特化した部屋をつくり、積む作業を効率化した」のだ。

詳しくは下記ブログに書いたが、端的にいうと、①河原に石以外のものを置かず、②片づけはダンプカーで石を一気にかき集めて箱に流し込む(丁寧に積み上げない)というやりかた。
部屋がまっさらな状態に戻るまでの作業時間は5~10分ほど。

でもまあ、これはあくまで「私」の賽の河原での過ごしかたであって、たとえば、「そもそも石は積み上げない(散らかっていても気にしない)」「小鬼自ら石を積み上げるよう根気よく教える」だって賽の河原で生き抜くための立派な処世術だと思う。

* * *

ここで、4歳の娘に話を戻したい。

せっかく片づけたペーパークラフトを弟に崩され、泣きながら登園した娘だったけれど、「あれからすぐに泣き止んで、好きなおもちゃで黙々と遊んでいましたよ」と、お迎えのときに担任の先生が教えてくれた。

「保育園では自分のペースで工作に取り組んでいます。集中力がすごいですね」と、先生が言葉を続けると、へへへと娘が照れくさそうに笑った。

どうやら彼女の賽の河原での処世術は、「小鬼の居ないところで、じっくり丁寧に石を積み上げる」だったみたい。

そうだね。娘ちゃんは、そろそろ自宅でも「ひとりになる時間」が必要かもしれないね。

そんなことをぼんやり考えつつ、子どもたちを連れて帰宅すると、

どさっ、がらららら、ずざざざざざ・・

家に着くや否や、盛大な擬音をたてながら4歳と2歳がレゴを床一面に広げはじめた。ふたりは顔を寄せあって、きゃっきゃ、きゃっきゃと笑っている。

うん、大丈夫。
どんどん崩して、ぐんぐん遊んで。

最後はてきとーに積み上げちゃうから!

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好きな本⑤『生物と無生物のあいだ』/福岡伸一
70
5、3、1歳の母。通勤電車で育児日記を書く日々。暮らしのブログも運営中▶http://yorimichi-kazoku.com/