中国のオンライン/オフラインのトラフィックの行き先
你好!こんにちは!Yoren/游仁堂です。
中国といえば人口が多いイメージを持たれる方も多いかと思いますが、多くの国と同様に人口減少局面に入っています。そのような状況の中で、オンライン/オフラインの人口の変化を理解することは中国で集客をすることにおいてとても重要です。本日は「中国のオンライン/オフラインのトラフィックの行き先」について、Yoren COO の栗栖が、三菱UFJ銀行が発行する『MUFG BK 中国月報2024年5月号』に寄稿した内容を一部変更してお届けします。
中国のオンライン/オフラインのトラフィックの行き先
游仁信息科技(上海)有限公司 COO 栗栖祐哉
消費市場における主な成長要因のトラフィック
消費市場において何より重要になるのはトラフィックである。もちろん成熟市場においては、商品単価の向上による市場成長も重要ではあるが、多くのメーカーやリテールにとって、ベースとなる 客数=トラフィックが最も重要な指標であることは異論がないだろう。 しかし、現在、中国は人口減少局面に入り、インターネットの普及率も既に高い水準に到達し、オフライン/オンラインともに今まで通りの伸びは期待できなくなった。そこで今後、重要になるのは、総量は増えない中でその内訳がどこからどこへと移動していくかである。本稿では、オフライ ンとオンラインそれぞれのトラフィックがどう変化しているのかを分析し、今後、トラフィックの恩恵(=流量红利)を受けられる市場がどこにあるのかを明らかにしたい。
オフライントラフィックの変化 ~ 短期の移動は減り、常住人口は上海周辺と中南沿岸部が増加
中国全体の人口は 2022 年から減少に転じ、2022 年は人口減少率が 0.06%、2023 年には 0.15%であった。今後、人口増加に転じる可能性は極めて低く、総数は加速度的に減少することが想定されている。 人口の移動は、旅行や出張などによる一時的な移動と、居住地を変える長期的移動の 2 種類がある。 前者について、中華人民共和国文化和旅游部が公表している国内旅行回数のデータを参考にすると、 2019 年のコロナ前は 60 億回だった国内旅行が、コロナ後は半分となった。2023 年には大きく戻したが、いまだ 2019 年の 80%程度にしか戻っていないことが分かる。足元の景気の影響はあるもの の、今後、数年かけて旅行地のトラフィックは当時の水準までは戻っていくのではないだろうか。
長期的な移動に関しては、常住人口(当該地域に 6 カ月以上住んでいる人口)の変化に着目すると、 ①中国北部(華北・東北地域)は全ての直轄都市と省で人口減少、②上海市周辺の華東地域は全般 に人口増加、③中南地域は海岸部(海南省、広東省、広西チワン族自治区)とそれ以外で増減がは っきり分かれる、④西南・西北地域は内陸奥部の寧夏回族自治区、青海省、新疆ウイグル自治区、 チベット自治区で人口増加、という状況が見て取れる。人口規模を鑑みると、上海市周辺(特に浙 江省)と中南地域の沿岸部のみが人口増加の恩恵を受けられるエリアといえるだろう。
なお、コロナ前を含めた直近 10 年の常住人口の変化を見ると、中南地域の内陸部、西南地区などは コロナにより明確に人口が減少しており、また、中国北部でも人口が減少している。一方、上海市周辺および中南沿岸部では、人口増加がコロナ前からの長期のトレンドであり、今後も続くことが予想される。
常住人口のデータを都市ランク別に分析すると、コロナ後はほぼ新一級都市と二級都市のみが人口増加していることが見て取れる。各省内においては、三級都市以下から新一級都市もしくは二級都 市に人口が移るのがトレンドであり、下沉市场(下沈市場:中国語で三級都市以下の市場を指す) が重要だと言われるものの、実は人口ボーナスという観点からはあまり恩恵はないと言える。
オンライントラフィックの変化 ~EC はまだ伸びるがショートムービーは天井、成長は本地生活
オンライントラフィックの元となるインターネット利用者数は、いまだに毎年 2-3%の増加を続け ている。都市部のインターネット普及率は 83%と日本と変わらない水準であり、増加はほぼ止まってきている(総務省のデータに基づくと日本は 2022 年の普及率が 85%。日本は 1 年以内のインタ ーネット利用有無で判断しているのに対し、中国は週平均 1 時間以上の利用で判断しており、実際 は日本の普及率を超えている可能性が高い)。利用者数増加は、主に農村での普及によって支えられ ており、都市部との普及率に 17%も差がある。しかし、農村での普及率が毎年約 4%伸びていることを鑑みると、今後、数年はしばらく伸び続けると予測される。
人あたりのインターネット利用時間は週 26 時間ほどであり、既に日本のインターネット利用時間 の平均を大きく上回っている。しかし、ここ 2 年連続で-6.3%、-2.3%と下がってきており、インターネット利用者数の増加をほぼ打ち消す形となっている。オンラインにおいては、ユニークユー ザーの数は増えていても、訪問回数/時間の総計は増えていないのが現状だと考えられる。
アプリケーション(アプリ)の利用状況としては、抖音に代表されるショートムービーのカテゴリはいまだ上昇トレンドではあるが、既に普及率は天井といえよう。個別アプリごとの統廃合はある ものの、特筆すべきなのは、トラフィックが全体のインターネット利用者の伸び以上になることは、もはやほぼない点である。アプリ利用状況の調査を行う QuestMobile の 2023 年 6 月のデータによると、ショートムービーは 20 代(主に学生)と 40 代以降、二級都市以下の都市で利用率が多く、「時間のある人たちが暇つぶしに見るスマートフォン(スマホ)型のテレビ」として既に定着している。
天猫(Tmall)や京東商城(JD)に代表されるネットショッピングの普及率は、ショートムービーに 比べて 10%以上低く、2-3 年は伸びていく余地があると思われる(意外に思われるかもしれない が、大型電子商取引(EC)プラットフォームは流通取引総額(GMV)が伸びなくなったことで「終わった」と言われることが多い。しかし、QuestMobile を始めとするアプリの利用状況を解析する企 業のデータを見ると、アプリの利用者自体は数%増加しているとするものが多い。ネット利用者自体の増加とネットショッピングの普及率上昇のためだと思われる)。一方、生放送やデリバリーといった別の販売形式を取るサービスの普及率は上昇余地があるため、今後しばらく利用は進む傾向だと思われる。
艾瑞咨询(アイリサーチ:i Research)の「2023 年中国モバイルインターネットトラフィック年次報 告書(2023 年中国移动互联网流量年度报告)」では CNNIC よりもさらに細かいデータが載っている。それを見ると、2022 年に対して10%以上ユーザーの利用率が上がったのは「生活服务(生活サ ービス)」「社区社交(ソーシャル)」「汽车服务(自動車関連サービス)」「美食外卖(外食デリバリ ー)」となっている。
伸び率トップは生活服务の16.2%だが、それは「本地生活」と呼ばれる実店舗を持つレストラン、 スーパーマーケット、レジャー施設、ホテルを対象に、オンラインで予約・デリバリー・団体購買 などのサービスを提供するアプリの伸びが主な原因である。代表的なアプリが美团(美団:メイト ゥァン)であり、同報告書では 1 年間で 23.5%のトラフィックを増やし、4.2 億人の MAU(Monthly Active Users)に到達したと報告されている。実は抖音も、最近は本地生活の機能を急速に強化して きており、周辺のレストランなどをライブや動画で紹介し、送客モデルへとビジネスの軸足を移し ている。
「社区社交(ソーシャル)」はアイリサーチによる 2023 年第 3 四半期(Q3)のレポートを参考にすると、小紅書(RED)、知乎(zhihu)といったアプリが 10%程度の成長を牽引している。これらの アプリは、生活上で必要となる知恵や知識を交換するプラットフォームである。実際の消費者や知 識人が書き込んでおり、信頼性が高いとされているのが特徴である(アイリサーチの 2023 年 Q3 の 報告書では微博(Weibo)も 10%以上の成長をしているとされているが、QuestMobile などの分析と 大きく異なる他、微博自身が発表した 2023 年の MAU の成長率は 2%であり、実際とはギャップが あると思われる。他のアプリ傾向は QuestMobile などと同じ傾向にあり、一定の信頼ができると考えられる)。
このように考えると、4 つのカテゴリのうち「汽车服务(自動車関連サービス)」はコロナ後の外出の回復に伴うものだとすると、トラフィックは地元サービスの紹介メディアとオンライン上での交流の 2 つに向かっていると言えるだろう。「生活服务(生活サービス)」も「美食外卖(外食デリバ リー)」もライブ、動画、画像などさまざまな形で紹介されており、美団や抖音は「ネット時代のロ ーカルテレビ・ローカル雑誌」を作ることで、トラフィックを集めているのではないだろうか。
まとめ
今回は、オフラインとオンラインのトラフィックに着目して分析を行った。結論は、オフラインの短期的な移動はコロナ前の水準に戻っておらず、数年かけて戻っていくものと思われる。移住を伴う長期の移動については、新一級都市および二級都市では人口が増え、上海周辺および広東・広西・ 海南エリアでは成長が見込める。オンラインはインターネット普及率の増加により、ユーザー数は 毎年 2-3%程度増加するも、利用時間は減少傾向であり、総利用時間としては横ばいに近い状況と いえる。今まではショートムービーが急速に伸びていたが、既に天井を迎えている。EC は、利用率 が数年は上昇する余地があるが、現在・今後の大きな伸びは「地元密着の生活サービス」と「イン ターネットでの交流」に依存しそうである。 本来は消費能力や人口属性などトラフィックの質も含めた分析をするべきだが、今回の示唆として 「下沉市场をやみくもに目指すよりは、人口増加地区の新一級都市・二級都市の攻略をきちんとで きているか」「オンラインではショートムービーの次に本地生活のメディアとして美団や抖音の活用に取り組めているか」といった点をまず考えてもよいのではないだろうか。
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こちらの記事は、三菱UFJ銀行が発行する『MUFG BK 中国月報2024年5月号』に掲載されたものを、一部変更したものです。