明莉

東京、京都、瀬戸内の離島、再び東京での暮らし。 一児の母になった。

明莉

東京、京都、瀬戸内の離島、再び東京での暮らし。 一児の母になった。

最近の記事

よく頑張った

4月某日、第一子となる女の子が生まれた。陣痛が来てから24時間以上掛かった。いつもと違う痛みに起きた朝、いつものように買い物をしながら痛みに波があることに気づいた昼、眠れない一夜を過ごし、昼が過ぎ、再び日が暮れようとしたところで、元気な産声をあげた。 分娩台の上で「下を見てください」と言われ、力を抜いた瞬間、足元の血の海の中には、たった今この世に放たれた小さな赤ちゃんがいた。羊水を吐き出す少しの間の後、大きな大きな声で身体いっぱいに泣き出した。 「よく頑張った、よく頑張った

    • 臨月

      臨月に入って、もうしばらく経つ。予定日まで2週間を切った。 おなかはズンと重心が下がり、椅子に座ると太ももに乗っかる。子宮はカチカチに張ることが多くなり、おなかが下がった分、胃が広がってよく食べる。 声が漏れるほど激しい胎動や、骨盤や恥骨がミシミシと動くような恐ろしい痛みがやってくる。かと思えば、あたたかい春の空気を吸い込んで、うきうきと散歩に出かけることもできる。珈琲屋の匂いも金木犀の香りにも吐き気を感じながら、スーパーの前で足踏みした日が懐かしい。 買い物も楽しいし、食

      • アップルパイ

        今日は朝から胃が痛い。胃が痛くてお腹も緩い。どうにもトイレとソファを行き来するしかなく日が暮れようとしているが、食欲だけはある。 いつものパンの朝ごはんと、昼には白菜とベーコンを炒め煮にした焼きうどんと、お気に入りのカルディで売っているビスケット2つ、近所のパン屋のアップルパイを食べた。 アップルパイ270円、小ぶりだけどずっしり重たい。大ぶりのりんごのコンポートが詰まっていて、一緒にカスタードとアーモンドクリームが溢れてくる。間違いなく、商店街でいちばん美味しい。 ビスケ

        • 東京の雪

          東京に雪が降った。2年ぶりの大雪だったらしい。 朝からいそいそと出勤準備をしてみたが、会社から「今日は危ないから休みなさい」と電話がかかってきた。妊娠後期の身体、ふっと胸を撫で下ろした。 会社とはいえ、幹部は家族ばかりの家業だから、私に甘い。甘いが、地域の零細企業、収入はしょっぱい。 急な休みの使い方が、どうにもうまくならない。考え事をしたり、ぼんやりスマホの画面を眺めたり、マタニティエクササイズとやらをYouTubeで開いてみたが、すぐにお腹が張ってきてやめた。やるべき

        よく頑張った

          みごもる

          人生で1番の腰痛を経験して、秋が来て、冬が来て、私は妊娠8ヶ月になった。あれは紛れもなく、妊娠初期症状だった。 思えば、その前に行った同級生との飲み会でハイボールが進まなかったのも、夏バテが酷かったのも、きっとそのせいだった。妊娠検査薬がはっきりと2本線を描き、どうしよう、嬉しい、どうしようを行き来し、つわりに振り回されて、安定期に安堵して、あっという間に8ヶ月になっていた。 お腹はまんまるに膨れて、今にもはち切れそうな勢いである。夢の中では、おへその横から足が飛び出して、

          みごもる

          腰がいたい

          腰が痛い。間違いなく今までの人生で1番痛い。 洗面所で手を洗って、鏡を見上げて、タオルで拭く。そのちょっとした姿勢で、痛みと違和感が確かなものになってしまった。無理だ、一歩も動きたくない。 おそるおそる、壁に捕まりながらソファに辿り着くも、ソファにどうやって腰掛けたらいいのかわからない。きっと、どさっと体重に任せて座ってしまったら、もう2度と自力では立ち上がれない気がする。 仕方がないから、ゆっくり歩いて台所に行き、冷蔵庫の麦茶をガブガブ飲み、スマホを握りしめてベッドまで来た

          腰がいたい

          主婦の道程

          東京に引っ越して、1ヶ月と少しが経つ。 夫婦で私の実家の家業に入った。夫はせっせと働いている。私は、停滞気味だった学業(大学の通信過程5年目)と、仕事のための資格取得にしばらく重きを置いて、家業は週の半分くらいに抑えることになった。 となると、週の半分以上はほとんど家で過ごす。 結婚を具体的に考えるまでは、同棲していても、私の暮らしと私のお財布を自由に操っていた。もちろん、家事や家計はざっくり分担していたけど、ざっくりズボラなもので、ざっくりお互い満足していた。だいたい赤字

          主婦の道程

          東京、1ヶ月

          島の暮らしの終わりを言葉にして残していこうと思っていたけれど、結局、目まぐるしい日々の中で、そんな時間は後回しにしてしまった。 なっちゃんが遊びにきて、O君が島にやってきて、それから今に至るまで、本当にたくさんの出来事があった。 ゴールデンウィークの前あたりから、毎日1組ずつ世界中からやってくるお客さんを迎えて、O君はみるみる逞しくなって、手作りの盛大な結婚披露パーティーをして、最後のお客さんを見送った日に新婚旅行に出かけて、そしていそいそと引越しにかかり、東京にいる。

          東京、1ヶ月

          続・なっちゃんが来た

          なっちゃんが来た、2日目のこと。 朝はのんびり起きた。静かな部屋に鳥の声や、遠くに船の音が聞こえる。そりゃあ、起きたくもない。目が覚めると同時にふたりしてぶつぶつと喋りだし、ゆっくりゆっくり起き上がって、わたしはパジャマのまま先に自宅に戻って朝ごはんの用意をした。 ヨーグルトとパンケーキとフルーツ。ちょっといい朝か、お客さんのための朝食メニュー。ねこたちも起きてきて、なうあうとしゃべっている。 コーヒーをドリップしている頃に、出かける支度を終えたなっちゃんがやってきた。

          続・なっちゃんが来た

          なっちゃんが来た

          ちょっとだけ遡って先週のこと、なっちゃんが島にやって来た。 なっちゃんは、保育園と小学校が一緒だった幼馴染。0歳から保育園通いだったから、家族のように並んでお昼寝したり、お散歩に出かけたり、小動物らしいケンカもしていた気がする。 今年のお正月に帰省して、久しぶりに地元で会った。「一緒にあそぼう」というのは、おそらく小学生以来のこと。気付けば15年くらい経っているのに、地元の幼馴染はいつでも変わらず心地いい。変わったことは、集合場所が公園から居酒屋になったくらい。 物心つい

          なっちゃんが来た

          3人暮らしのはじまり

          朝8時半、連泊中のお客さんを隣の直島まで送った帰り、ひとりの青年を船に乗せて帰ってきた。 Oくんだった。私たちの宿をこの夏に引き継ぐ彼が、名古屋からやってきた。引っ越すまでの約2ヶ月、共同生活をしながら2次離島の暮らし方を伝えていく。 体重は私より絶対軽いと思うほどの細身、色白の肌、柔らかに笑う表情。これからどう変わっていくのだろうか、とその姿を目に焼き付けた。 思えば、初めて島に来た頃の私は、(夫曰く)病気かと思うほど色白だった。野良仕事や船の整備を頼むのに不安しかな

          3人暮らしのはじまり

          ねこたち

          うちのねこたちの話をしよう。 うちには4匹のねこがいる。名前は、はな・くるよ・談志・やすし。はなが母親で3匹が子どもたち。”はな”と”くるよ”がメスで、”談志”と”やすし”がオス。 私が帰ると大体”はな”が出迎えてくれる。どんなに遅い時間でも、玄関が開く音がすると、いつも出てきてくれる。母猫の性なのか、人に対しても面倒見がいい。こんな遅くまで何していたの、早く寝ましょうよ。「んなあーあ」 ”くるよ”は食いしん坊で、台所にいる時は特に甘えてくる。素焼きの魚が大好物だけど、い

          ねこたち

          改ましての自己紹介

          改まして、あかりです。 香川県は瀬戸内海に浮かぶ、2次離島に暮らしています。 2次離島というと、隣の島までは定期船が行き来しているけれど、わたしのいる島は、そこから自分の船を漕いで渡らなければいけません。 数年前に移住をして、元漁船の小さな船を譲ってもらい、気づけばバイクに乗るくらいの感覚でひとり海を渡るようになりました。何事も慣れ。 今年の2月に結婚をし、今は夫とねこ4匹と築150年の平屋で暮らしています。社会から切り離されたようで、とても豊かな生活です。 この生活

          改ましての自己紹介

          ひとの心配

          叔母から電話が掛かってきた。先月の結婚式ぶりの会話である。 ああ、内祝いを先日送ったところだった。「いい式だったね、よかったね」「ありがとうございます」それでよかったのに。 猫はどうするの、4匹も連れて来るのは無理があるんじゃない。今からでも、もっと職場に近い家を探して、何年後かに迎えに行けばいいじゃない。 世話を誰かに頼めばいい、猫たちを置いてきなさい。 そう、うちには島で生まれ育った4匹の母子のねこたちがいる。仲が良くて、よく喧嘩もして、それぞれが個性的で、最高に面白

          ひとの心配

          おわりとはじまり

          瀬戸内海に浮かぶ人口10人の小さな離島に暮らし始めて、もうすぐ2年になる。この2年、何度も波にのまれそうになり、でも心を研ぎ澄ませながら、ぷかぷかと海を浮かんでいるようだった。 結婚をした。 ふらりと訪れたこの島で彼と出会い、3年が経ち、結婚をした。 一緒に暮らし始めてから、もう1年は過ぎていた。結婚しても、しなくても、何も変わることはないだろうし、ただ手続きをするだけだ。そう思っていた。 けれど、すべてが変わりつつある。 「家族になる」ということは、そういうことだった

          おわりとはじまり