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何でも持ってる友達がいる

「あぁ、こいつにはまだ、敵わないんだな。」

そんなふうに思える同年代の友達なんて、よっぽどいないと思った。
歳は同じで、自分より1年先に同じ大学を卒業。誰もが「良い」と口を揃える大手広告代理店に入社した、社会人2年目の若手ビジネスパーソン。

大学時代から何かとできるやつだなとは思っていたKと、先日1年と数ヶ月ぶりに東京で再会した。


「おれは人の心について知ることが好きなんだ。おまえは何が好き?」

1. 自分について、深いレベルで理解していること。
自分の好きなこと、大事にしている信念やスタンス、自分の行動パターンや志向への客観的な理解、理想。

「おれは心に思ってないことは、絶対に口に出さないから。
会社で理不尽なことに対して謝るにしても、謝る対象を明確にしたいよね。『○○に関しては申し訳ございませんでした』、みたいな具合に。笑」

「心理学から人の心について研究していこうと思ったけど、プロセスに時間がかかるし、学会とかの仕組みも時代遅れで思ったよりクソだった。
それならビジネスでどんどんPDCA回して、知的好奇心満たし続けていけばいいと思った。広告って、『こういう心理で人は動くんだ』とか、『訴求の仕方をこう変えたら閲覧率上がるんだ』とか、面白いよ。」

「その場でその時の欲求は全部満たす。言いたいことを言うし、やりたいことをやる。我慢しないし、その意味では短期的な生き方だね。
もちろん、我慢は長期的な欲求を満たすのに役立つかもしれんし、必要な時もあるかもしれないけど。おれはそういう生き方やらないね。」

「自分にとっての面白いやつって、自分の『好き」とか『大事にする価値観』とか持ってる人。
大学時代は面白い人いなくてつまらなかった。なんでやろな。
模範的な『いい子』ばっかで、自分の知的好奇心を満たしてくれるような、新しい考え方考え方とか提供してくれる人いなかったからか。」

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相変わらずの攻撃的な口調。

でも、なんなんだよ。
ことばの1つひとつに、目の前の『こいつらしさ』が入ってる。
わざわざ本人の口から言われなくても、人への知的好奇心が全ての行動や思考へのモチベーションの源泉になってることが、わかる。
こいつがやってきたことも、いま身を置く環境も、やっていることも。
全部に筋が通っているし、無駄がない。他人の俺ですら、こいつの行動1つひとつに納得できる。

なんなんだよ。『自分の人生を生きる』って、こういうことかよ。
眩しすぎるだろ。なんなんだよ。


「好きなこととか、大事にしてることとかあんの?」

不意な質問に、嫌な汗が滲んだ。
自己分析の大切さも知っているし、ライフストーリーを通しての価値形成も、整理や深掘りをしてきたつもりだった。でも、なんでだよ。口から出た回答は、全部が陳腐に思えた。

ことばの1つひとつの背景にある思考の深さとか。属人的な人間性や価値観がベースになる、無意識の中に感じる話の一貫性とか。全然違う。

レベルの違いって、こういうことかよ。


『こいつは誰よりも優しいんだ。だから魅力的なんだ。』

2. 人を大切にするということ。
「おれはKが面白いと思うような、自分の『好き』を明確に語れるタイプの人間じゃない。むしろ、そこが自分でも見つけられなくて、長い間苦しんできたんだよね。だから、期待に沿うような回答はできないと思う」

「『苦しんできた』とか、自分で言うなんてイケてないよな」と感じながらも、思わず口にした。こいつのレベルについていけないことが申し訳なくて、情けなくて。少しでも自分への期待値を下げてほしかったんだと思う。
思考の浅さに対して黙って幻滅されるのが怖くて、せめてレベルの差を自認できていることを伝えたかった。

「いや、期待がどうだとか、ビジネスパートナーでもないんだし(笑)」

「友達なんだし」とか、そういう表現は絶対にしないのはKらしいなとは思ったけど、おれが劣等感を感じていることを察して気を遣ってくれていることが、その後のやりとりから伝わった。

『面白い人が好き』なのは、『つまらない人には優しくしない』ことじゃない。人の心への知的好奇心が強いからこそ、蔑ろにされた人が感じる虚しさとか、微妙な気まずさとか、誰よりも共感できる。
(共感を態度に出したり、相手のために行動に移したりするのは別として)

だから、K自身は集団の先頭に立てるし、誰が見ても"ノリが良い"タイプだけど。
高校の文化祭準備を楽しめない、あまり目立たないクラスメイトの気持ちも分かるし、何となく模範的な回答を求めてしまう「いい子」な大学生の気持ちも、深い理解ができる。

「塾でバイトしてた時の生徒とか、かわいそうだなーって。『内申点を上げるために綺麗なノートを作る』とか、何の意味があるの。その時間、無駄じゃね?って。
例えば釣りが好きなら、もっと好きを追求するために生物学を学ぶ必要があると。波について知るために、海洋学を勉強したいと。そんな風に好きを突き詰めたら、勉強したいことって無数に出てくるはずなんだよね。」

「組織の中でも同じことで。高校の文化祭の時とか、あるじゃん、一定のグループだけ盛り上がる感じになっちゃって、残りは『おれら何もしてないし』ってなっちゃうやつ。
そいつらも各々好きなことがあるわけで、『おまえらゲームしたりマンガ書いたりするの好きじゃん。ちょっとここらへん、楽しい感じに装飾しといて」とか言ってやるだけで、すげー楽しそうに作業に没頭する、みたいな。
おれがそういう風に、自分で人を動かしたいだけなんだろうけど(笑)」

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『組織とヒトの最適配置』がHR界隈でのキーワードにもなっている、今の時代。
現在もほとんどの組織でできていないような「人を大切にする」本質を、8年も前に高校生が、40人のクラスのマネジメントで体現してたってさ。

おれも人事でメシを食っていきたいんだから、めちゃくちゃ共感できた。
でも、そんな考えを持ったのは最近だし。
なんだよ、全然敵わないじゃん。

1人ひとりの「好き」とか、「大事にしてる価値観」とかに寄り添うのは、『人を大切にする』ことだと思う。

その手段としての『優しさ』は、Kは人の心への興味から成り立ってる。


「すみません!生肉の盛り合わせ1つ、お願いします〜。」

Kが居酒屋の店員さんにした注文は、相変わらずおれには見せない表情と、誰もが人当たりが良いと感じるような語調だった。


「不安に思ってることとか、現状への不満とかってあるん?」

3. 自分の人生を生きるということ。
ふと思い立って、そんなことを聞いてみた。

「う〜ん、、不安とか不満は、ないな。ただ圧倒的にスキルが足りないから、仕事することはたくさんあるなってだけ。」

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あぁ、そうだよな。その場でその時持っている欲求は満たし切るんだから、日常に不満なんて残すはずがない。

自分が好きなこと、大事にする志が分かっているんだから、目の前の取るべき行動も明確になる。ただ、知的好奇心を刺激する方へ進むだけだ。先の見えない将来への不安とかも、あるはずがない。

そんな生き方が、羨ましくて仕方なかった。
自分の人生を生きるこいつが、眩しくて仕方なかった。

「マーケティングでもプロモーションでも、何かに突出していないと仕事は任せられないってことに、現実と理想のギャップは感じてるよ。
仕事としてやりたいことは別にない。結果が出せるスキルは欲しい。」

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「やりたいことは別にない」ってこんなに自信満々に言うやつ、会ったことねぇよ。大きな仕事を任せられるようになれば、もっと大きな世界を見せてくれる。自分の好奇心を飽きさせない、まだまだ知らない世界に行くことができる。

だから、「成し遂げたいこと」なんて、なくてもいい。



『おれは、こいつみたいになりたいわけじゃないけど。』

ぼくは、大事にする価値観も、人に優しくすることの方向性も、Kとは全然違う。仕事を通して成し遂げたいことも、在りたい姿も持ってる。

でも目の前のこいつは、身の回りの同年代の誰よりも、ずば抜けてカッコよかった。『おれが欲しいものを、全部持ってるじゃん』と思った。

それは自分らしさとか、心に従って毎日を生きる、とか。
これ無くしたら、僕がぼくじゃなくなる』って言えるような生き方、
とか

ぼくにとってこいつは憧れの人だし、今はどうしたって、何もかも敵わない。そんなやつが友達でいてくれるのは、最高に幸せな気がした。

早くこいつの期待を超えて、ビジネスパートナーになれるくらいに成長してやろうと思った。

2018/07/07

まだ何者でもないですが、何者かになりたくて文章を書いています。記事を読んで、どこか1つでも共感できるところがございましたら、サポートいただけると、何よりの自信につながります。