【ワインセラーの調査】

 舞目路と碧居に案内してもらい、地下のワインセラーに入る。
 元は納戸だったのを改造したらしい四畳半ほどの部屋。三方の壁を、横倒しにされたワインボトルがずらりと並ぶラックが埋め尽くしている。

「こりゃすごい。何本くらいあるんですか?」

「あっ。500本は超えていると、聞いたことがあります。『死ぬまでかかっても飲み切れないだろうに、掘り出し物があるとつい買ってしまうんだよ』と言って笑ってらっしゃいました」

 舞目路が寂しげに笑った。

 ラックを覗く。
 ワインにはそれほど興味のないあなたでも名前を聞いたことがあるような、有名な銘柄が無造作に並べられている。
 産地やブドウ種で分けられている様子もなく、買った順に適当に突っ込んでいるようだった。これなら、腕太が「レ・ヴィオレッテ」を探すのに手間取ったのも頷ける。

「碧居さん。こうやって屋敷に人が集まる時に、望月さんがワインを振る舞うのはよくあることだったのか?」

「え、ええ。俺ら幹部三人は月に一度、一日(ついたち)にここに集まって定例の報告会をするんですが、毎回、組長が選んだ赤ワインを出してくれるんです。十月ならハロウィンがあるから『ファントム』……”幽霊”って名前の銘柄とか、そういう茶目っ気のある人でした。俺は飲めないからお義理に口をつける程度ですけど、泥舟さんなんか、酒好きだから喜んでましたよ」

 碧居の答えに頷くと、あなたは舞目路にも尋ねる。

「例のワイン――レ・ヴィオレッテも買ったのは望月さんが?」

「あっ。はい。馴染みの酒屋さんにお願いしてわざわざフランスから取り寄せてもらったんだそうで、今日のお昼すぎになってやっと届いたんです」

 あなたは思案した。謎を解くためのいくつかのピースが、嵌ったように思えた。

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