【舞目路黒美の証言】

――この屋敷で働き始めて、どれくらいですか?

「あっ。まだ二か月ちょっとです。勤めていたレストランを辞めてしまって、再就職先を探していたところにノリちゃんが……あっ。碧居さんが、家政婦さんを探している人がいるって声をかけてくれて。あの人は兄の中学時代の同級生で、親友なんです。私のこともいつも気にかけてくれて……」

――今日、屋敷を出たのは何時頃ですか?

「あっ。夜の6時過ぎです。……あっ。普段は昼の1時頃に来て、掃除と洗濯、買い物をして3日分の夕食を作り置いたら、望月さんと腕太さんがお帰りになるのを待って一緒に夕食を頂いて、その片づけをして9時頃に帰るって感じなのですが、今日は望月さんが『お正月だし、早めに帰って良いよ。夕食は出前を取るから』とおっしゃってくれて」

――望月さんたちが居ないことも多いだろう時間にいらっしゃるということは、屋敷の合鍵は……

「あっ。持っています。なんでも海外製の特殊な鍵だとかで、複製できないものだから失くさないよう気をつけてと言われていました。あっ。今も持ってますよ。ほら」

――何か、この屋敷で働く上で困ったことはありませんでしたか?

「あっ。困ったこと……特にないですけど、あっ。しいて言うなら、気をつけないとすぐブレーカーが落ちちゃうことくらいかな。オーブンと乾燥機を同時に動かしてる時に掃除機をかけたりしたらもう。アンペア数が足りないんだと思います」

――あなたから見て、望月さんはどんな人でしたか?

「あっ。優しい人、でしたよ。ヤクザの組長さんだって言うから、最初はどんな怖い人なのかと思ったけど……怒られたことも一度もないし、ごはんが美味しいっていつも褒めてくれるし。卵アレルギーだと伺っていたこともあって、メニューは自分なりにけっこう工夫してるつもりでしたから、それが伝わってたのかなと思うと素直に嬉しいです。腕太さんのことを大切に思ってるのも言葉の端々から伝わって来て……事情があって親戚の子を預かってるんですよね? 腕太さんの方は、まだ新しい環境に戸惑っている感じでしたけど。……あっ。すいません余計なことを」

――いえ。ありがとうございました。

→戻る

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?