【有栖井腕太の証言】

――キミは、望月組長の息子だね?

「……誰から聞いたんですか?」

――そのお父上譲りの、綺麗なグレーの瞳を見れば誰でもわかる。

「……父にも似たようなことを言われました。母は3カ月前に急性の胃がんで亡くなったのですが、死ぬ直前に言われたんです。『うさぴょんぴょん組の望月十五を頼りなさい。その人があなたの父親だから』って」

――自分の父親について、それまでお母上に尋ねたことはなかったのかい?

「ずっと、父は僕が生まれる前に死んだと聞かされていました。母は小さな飲み屋をやりながら、女手一つで僕を育ててくれたんです。望月なんて名前は母から一度も出たことがなかったから、戸惑いました。……会いに来た僕に、父は一緒に暮らそうと言ってくれました。この目を見ただけで、何の証明も求めずに、僕を息子だと認めてくれたんです」

――お父上は、キミが後継者になってくれることを望んでいたんじゃないか?

「直接、言われたことはないですが……たぶん、そうだったと思います。議員さんとか会社の社長さんとかと会う時に僕を同行させたり、お金の流れとか組織がどうやって動いてるかとか、色々教えてくれようとしていましたから。――ヤクザの親分なんて、とても僕には務まらなかったと思うけど」

――犯行があった時、キミはお父上のすぐそばに立っていたと思うが、何か気づいたことはないか?

「いえ、何も……すいません、お役に立てなくて」

――話してくれてありがとう。

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