【碧居法比古の証言】

――凶器に使われた鰐飛のドスだが、盗んだのはお前じゃないのか?

「あちゃ。もしかして、泥舟さんにでも見られてました? 参ったな。確かに盗んだのは俺です。組長から頼まれたんですよ。これを飲ませれば前後不覚になるから、飲みにでも誘って鰐飛さんからドスを盗って来いって錠剤を渡されて。くすねたドスはあの夜のうちに、組長の家まで届けました」

――望月さんに頼まれただって?

「鰐飛さんはあのドスを、病床の先代から託されたんだと吹聴してましたが、どうやら組長はその真偽を疑ってたようなんです。組での自分の権威を守るためにでっち上げた嘘なんじゃないかって。だから、鑑定に出したいと言ってました」

――なるほどな。望月さんが、ナンバーツーである鰐飛を飛び越えて別の誰かを後継者にしたいと考えていたなら、彼の勢力を削ぎたいと考えててもおかしくはない、か。

「組長にはよく、そういう個人的な『お使い』を頼まれてましてね。ちょっとした調査とか」

――舞目路黒美を望月さんに推薦したのも、アンタだそうだな。

「ええ。腕太を引き取ることになったから家事ができる人を雇いたいと言われたんです。二か月くらい前かな。黒美ちゃんが再就職先を探してると兄貴から相談を受けてたんで、料理のプロのあの子ならぴったりだと思って声をかけたんです」

――前の勤め先を辞めた理由は聞いてるか?

「パワハラですよ。黒美ちゃん、けっこう有名なフレンチの店で働いてたんですが、そこのオーナーシェフってのがクソ野郎でね。暴言を吐かれるどころか、殴る蹴るも日常茶飯事って店だったんです。耐えられなくて辞めたのは彼女だけじゃないそうで。可哀想に……だから組のみんなで乗り込んでいって、左右どっちの手でも二度と包丁が握れないようにしてやりましたけどね」

――そりゃ結構だが、彼女から何か、望月さんについて相談を受けたことはなかったか? 困ってることがあるとか。

「いや、黒美ちゃんも楽しくやってるみたいだったけどな。組長がいたく彼女のことを気に入ってましたからね。昔惚れてた女に少し似てるんですって。金出して飲み屋を持たせてやるくらい入れ込んでたのに、結局フラれちゃったんだとか。すみれさん、って言ってたかな確か。名前まで覚えてるんだから相当、未練たらたらですよね」

――アンタの大切な女性に、組長が昔の女の面影を重ねてるってのは気が気じゃなかったんじゃないか?

「なな何言ってるんですか! そんな! 俺は別に黒美ちゃんをそんな目では見てないっていうか? 妹的存在というか? それに、組長だって黒美ちゃんだって独身なんだから? 仮に、仮にですよ? ふたりがそういう関係になったって? う。お互いの同意の上なんだったら? 別に? ぐす、なんの問題も、ないじゃないですか。うう」

――泣くなよ。もう十分だ、戻ってくれ。

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