小説「ベーションマスター」4
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「おい。オレがまず手本を見せてやるから同じようにしてみろ」
その日の放課後。力が部室に足を踏み入れると、心がさっそく絡んできた。
問答無用で力をベーションルームのところまで連れて行くと自分が先にルームへと入っていった。
『いいか? 計測は三回。射精に失敗しても一回として計測される。やり直しはなしだ。また長時間射精せずにいてもそれは無効としてカウントされる。最低でも三十分以内には射精しろ。記録に残りたいなら十分を切るのが目安だ。一番きついのは三回目。射精に慣れてくる頃が一番きつい。ここで時間を使ってしまうことが多いから注意だ。早めに勝負をつけるなら最初の一発。ここでタイムを出せなければほぼほぼ負けだ』
そう捲し立てると心はハヤマスモードを起動する。
もはや聞き慣れた計測音が鳴り響き、謎の緊張感が部室を包み込む。
勢いに飲まれていた力も自ずとそばにあるモニターに注目した。
改めて冷静になってみると、こうやって外から自分がオナニーしている姿を見られていたんだなと恥ずかしくなってしまう。
今は心が中にいるので、心のオナニーを客観的に見ている状況だ。
それはそれで人の恥ずかしい行為を盗み見しているみたいで罪悪感が湧いてしまう。
そうこうしてるうちに、心の腰が激しく動き始める。
ハヤマスで手は使ってはいけないが、腰を動かすことは認められている。
棒立ちのままではただの搾精作業と変わらないからだ。
競技性を持たせるために腰の動きだけが許されている。
この些細な動きがタイムをコンマ単位で縮めたりするので、ハヤマスは見た目は地味だが奥が深いとされている理由だ。
オナホの動きに合わせて逆の方向へ腰を動かしている心。
力には心がなぜそんなことをするのかわからなかった。
しかし、これが心のスタイルである。
オナホの動きと腰を反対に動かすことで、挿入時のストロークが長くなるのだ。
まさにオナホとペニスのガチンコ勝負。
オナホは上下だけでなく左右にも動くのでソレに合わせて常に逆方向へ腰を動かしている。
近くで見ていないとわからないほどの繊細な動きだった。
そんな心の繊細な腰の動きに気を取られているうちに一回目の計測が終わりを告げる。
タイムは四分十二秒。五分を切る好タイムだった。
その後も休むことなく続けざまに二回計測する。
二回目は五分十秒。三回目は四分五十秒だった。
初心者の力には何がどうすごいのかよく理解できなかったが、心の射精速度が異常に早いことだけはなんとなくわかってきた。
普段人のオナニーなんて客観的に見ることのなかった力にとって心の高速オナニーは魅力的に思えた。
雑に何も考えずオナニーしていた力にとって、腰をうまく使った心のオナニーはとてもかっこよく見えたのだ。
「すごいです。心先輩」
「次はお前もやってみろ」
「え。僕もですか!?」
「お前にはハヤマスの才能がある。とりあえずやってみろ」
「え、あはい」
またもや流されるままにベーションルームに入る力。
心に指示されながらもなんとか三回の計測を終えた。
一回目は六分十秒。二回目は十分二十秒。三回目は十四分二秒だった。
やはり回数を重ねるごとに速度が落ちていった。
心がやったように見よう見まねで腰も動かしてみたが、うまくオナホと噛み合わくてそれが余計な雑念となり射精までの時間がどんどん長引いてしまった。
意識すればするほど射精までの時間が遅くなる上に、最初はあれだけ感動したオナホの動きも単調に感じるほどだった。
これなら自分でオナホを動かした方が圧倒的に早く射精できるとさえ思ったほどだ。
「悪くない」
「え?」
力はてっきりまた愛想をつかされると思っていただけに、心のその反応に意表をつかれた。
「お前はまだ昨日今日の数日程度しかこのベーションルームを使っていないにも関わらず、すでにタイムは平均より上だ。やはりオレの目に狂いはなかった。普通のやつは二十分を切るのさえやっとだからな。お前のペニスの感度がやたらいいのか、それともこれまで自然と身につけた射精方法とハヤマスの相性がいいのか。ともかくお前なら確実に入賞を狙える。オレと一緒にハヤマスをやれ」
「え、あ、あの……僕はまだベーマス部に入るとは一言も……」
「それぐらいにしてやれ心。言ったろ。力はただオナニーしに来ているだけだと。それにまだ体験入部なんだ。正式に部活に入ったわけじゃない」
いつから部室に来ていたのか、優が心の背後から助け舟を出してきた。
「それより力。今度はレンマスをやってみないか?」
「え?」
どうやらまだ何も助かっていなかったらしい。
今度は優が自分の得意とするレンマスという競技について熱く語り始めた。
「レンマスは正式名称コンテニューマスターベーションと言ってな。ハヤマスが射精の速度を競うのに対し、レンマスは射精の回数を競う競技だ。持ち時間は一人三十分。三十分以内ならどんな方法で射精してもオッケーな競技だ。ハヤマスみたいに統一されたオナホを使わなくてもいいし何なら手でしてもいい。三十分間ひたすらオナニーするだけの競技だ。力にはむしろこっちのレンマスのほうが向いてると思うけどな」
力があっけにとられているうちに優もベーションルームに入っていく。
心がやったように優もレンマスをしている自分を力に見せたいようだ。
『あーあー。力、聞こえてるか? 今から三十分間でどれだけ射精できるか見ててくれ。ハヤマスのような難しい射精コントロールは必要ない。ただ制限時間いっぱいまでひたすら自由にオナニーするだけだ』
それだけ説明すると優は自らの手をペニスに当てる。
その堂々とした立ち姿は、あまりの自然さに裸体の彫像を思わせた。
鍛え上げられた肉体には無駄がなく、レンマス開始の合図とともに優の筋肉が激しく脈動する。
まるで筋トレしているかのような軽やかさでペニスが上下左右にシゴかれ、一発目の射精に至る。
その流れるような仕草がとても様になっていて、心の時とはまた違った男のたくましさみたいなものが力の琴線に触れた。
三十分はあっという間で、人のオナニーにここまで惹きつけられた経験がなかった力は開いた口が塞がらない。
「今日は筋肉の調子も良かったので三回もイケたな。普段は二回が限界なんだが」
三十分で三回はかなり多いほうだ。
レンマス競技でもほとんどの人が二回で終わるのが普通である。
三十分は長いようでとても短い時間なのだ。
「じゃあ次は力。やってみるか?」
「え?」
またしても言われたままベーションルームに入る力。
好きな方法でオナニーしていいと言われたので、いつも使っているオナホですることにした。
レンマスモードの開始音が鳴ると同時に、オナニーを始める。
さっきハヤマスで三回も出したから、さすがにもう出ないかなと思ったらあっさり一発目を発射し、自分でも驚きを隠せなかった。
『いいぞ力。その調子だ。まだまだ時間は残ってるぞ』
「は、はい!」
優に乗せられたのかどうかはわからないが、その後も順調に二発目と三発目を決めて、なんと残り五分というところで四発目を出すことに成功した。
ベーションルームを出ると、優が飛びついてきた。
「すごいぞ力。初めてのレンマスで四回も出すなんて、これが試合なら一位も狙える好成績だ」
「そ、そうなんですか」
「ふん。まぐれだろ」
心は力がレンマスにも才能があったことが気に入らないのか、それともハヤマスの時より多く射精していることが気に入らないのか管を巻いている。
しかしこのときはまだ誰も気づいていなかったのだが、力がたった一日でハヤマスとレンマスを経験し、その合計射精数が六回というのは驚異的な数字だった。
それだけではなく、力の射精は朝起きてから部活が始まるまでに十回を超えており、部活が終わって家に帰ってからもオナニーをする力は一日で計二十回近く射精していることになる。
これはプロのベーマス選手でさえなかなか経験しない射精回数だった。
そう考えるといかに力がすごいことをしているか、このときは誰も知らなかったことである。
そんな力がベーマス部に正式に入部するのにそう時間はかからなかった。
心や優に促されてハヤマスやレンマスを繰り返してるうちに自分のオナニーはどこまでいけるのか純粋に興味が湧いたのだ。
ベーションルームの使い方すら知らなかった力にとってベーマスとの出会いはまさに運命的で、それを教えてくれた先輩二人の存在はとても大きく、誰かと一緒にオナニーすることがこんなにも楽しいことだったのかと新たな気づきを得たのである。
「改めて、よろしくお願いします。御陰力です。ベーマスのことはまだまだわかりませんが、頑張っていきたいと思います」
「ありがとう。念願の一年が我が部に入ってきた。それだけでも嬉しいぞ」
部長である優は涙を流しながら拍手して歓迎している。
「ん」
一方、心のほうは当然の結果だと疑いもしないのか、照れくさそうにする力を一瞥するとすぐに文庫本を読み始めた。
たった二人だった部活がこれで三人に。
まだまだ廃部の危機は免れていないが、力が入部したことで正式にベーマス競技会へ出場できるようになったのだ。
ベーマス個人競技であるハヤマスとレンマスの他に、通称ロンマス。正式名称ロングマスターベーションと呼ばれる団体戦が存在する。
それに参加するには最低人数三人という人数が規定されている。
これをクリアできていないと個人競技にも出場できないのだ。
団体戦への参加の是非に関わらず、最低三人の部員というのがこのベーマス競技においてとても重要な数字になっている。
ベーマスの歴史の発展とともに、オナニーとは孤独なものではなく、誰かと競い合い、時に認め合う健全なスポーツとして認知されていった。
そのバランスを保つために最低三人の部員という人数が規定されているのだ。
そして何より、実は世間的にはベーマスは個人競技であるハヤマスやレンマスより、団体戦であるロンマスのほうが大人気なのである。
三人で交代しながらオナニーを行うロンマスは単純に見ていて楽しい上に、ハヤマスやレンマスになかった戦術がプラスされることでよりオナニーに刺激を与える。
見てる方も競技をする方も、これほどハラハラドキドキする競技はないと確信している。
オリンピックでも常にこのロンマス競技が脚光を浴びることになる。
日本の代表であるベーマス選手が三人選出されて、各国との熾烈な争いに発展する様はまさに現代の合戦。
その姿に憧れてベーマス選手を目指す子どもたちが後を絶たないほどだ。
こうしてベーマスの歴史は繰り返され、今に至る。
私立聖碧高等学校ベーマス部の幕は今上がったばかりだ。
投げ銭大歓迎!