千葉県立中央図書館に関する動向まとめ(2019.12.28)

■ プロローグ

 本格的なプレキャストコンクリート構造による大規模建築の嚆矢、千葉県立中央図書館(1968年・建築:大高正人、構造:木村俊彦)に初めて訪れた。プレキャストによる特徴的なワッフルスラブが印象的に軒裏に現れているエントランスをくぐると、想像していたのとは随分と異なる館内風景が目の前に現れた。よく見ると、ブルーの仮設壁でどこもかしこも塞がれている。それでも、改修作業でもしているのか、とさして疑問にも思わず案内に従って仮設壁に沿って奥に進む。

 カウンターで、図書館の建築に関する資料がどこかにまとまっていないかと尋ねると、関連記事掲載誌のコピーをまとめたものを出してくれた。それほどの量ではない。目の前の実物と照合しながら、端から繰って目を通していった。そもそも平面からして何の事前知識もない。まずは現在地を確認と、エントランスから辿って今居る閲覧室を探すが、どうもピンとこない。何度か周囲を歩き回って確認したりして、ようやく当時の室用途と現在のそれがずれていることに気づく。この部屋は、当初は学習室として計画されていたようだ。50年近くも施設を運営していれば、そのようなこともあろうと勝手に納得した。

 一通り記事を読み終えて帰りしなに、受け付けの守衛氏に仮設壁のことを尋ねてみた。すると「壁の裏は書庫になっている。もともとは閲覧室だったのだけど、耐震診断で耐震性に難ありとなったので、安全のために閲覧室として使えなくなった。」と返ってきた。なるほど…、先程いた閲覧室は臨時だったのだ。どうりで天井も低くて、いまひとつぱっとしなかったわけだ。それでは耐震改修でもするのかと追って尋ねると「移転して、ここは壊すことになったようだ。」とのこと……。あらら。するともしかしたら、今日が見納めになってもおかしくないなと、あらためて外周を見て回りながら、そのことをツイートしたりしたのだった。

 

■ 実際はどうなるの?

 そんなわけで、現地でちょっと耳にした情報だけを根拠に建て替えとのツイートをしたのだけど、思いの外「いいね」がついたり、リツイートされたりして、ふと「建て替え」という情報の正確性に不安を抱き、帰宅してからネット上の情報を拾い出してみた。

・中央図書館は移転する。現図書館の行末は不明
 結論としては、今年(2019年)8月に、青葉の森公園内(現中央図書館から南東に約1.5km)に新しい県立図書館を建てて、中央図書館、東図書館、西図書館および文書館の機能を集約する、という基本計画が策定されていた。移転後に、現・中央図書館の建物がどうなるのか(解体なのか転用なのか)についての言及は見つけられなかった。
 葛西臨海水族園と同じような成り行きなのだけど、現在の立地で建て替えとなれば解体必至なところ、移転であればまだ延命の可能性が残るとも言える。

「新千葉県立図書館等複合施設基本計画」の策定について


■ 動向まとめ

ということで、ネット上で拾った関連記事を、時系列で以下に列記しておく。

千葉県>教育委員会>県立図書館
県の公式な発表はここにまとまっている。

【平成23(2011)年12月】
千葉県立図書館の今後の在り方~つなげよう千葉の叡智―情報拠点としての図書館~
千葉県立図書館の今後の在り方(本文:PDF)
 昭和52年に、県全域への図書館サービスの浸透を図るため、県内を4地域に分け、各地域に県立図書館を設置するとする4館構想が提言された。後に、その提言の実現に向けて中央図書館に続いて西部図書館、東部図書館が整備された。
 しかしながら、市町村立図書館の充実やインターネットの普及などの社会状況の変化から、今後は4館構想による地域ごとの図書館サービスの向上を図るという考えをあらため、中央、西部、東部図書館の3館が一体となって、県立図書館全体としての機能を強化すべきとの方向転換を行った。
 報告書内では、「中央図書館の施設整備」という項目を掲げ、単なる老朽化のみならず「平成18年度に実施した耐震診断で Is値 0.25 と診断
され、耐震改修工事が喫緊の課題」であるとし、またバリアフリー化の必要性を挙げている(P.23)。

【平成24(2012)年8月3日】
県立中央図書館の耐震改修を計画/本年度で補強方法などの調査を実施 (日刊建設タイムズ)
「県教育庁教育振興部生涯学習課は、県立中央図書館の耐震改修を計画している。本年度予算に中央図書館耐震改修等整備事業費として980万円の予算を計上し調査を実施する。」
「中央図書館は開館から43年を経過し、施設の老朽化とともに耐震診断によるIs値が0.25で、耐震改修工事が喫緊の課題となっている。」
「耐震補強方法の調査・検討では、同図書館が当時としては目新しかったプレキャスト工法を採用していることから、耐震改修が可能かどうかについて調査する。」

【平成27(2015)年2月21日】
建築家の技、耐震化の壁に 県中央図書館(朝日新聞)
「県立中央図書館が、国の耐震基準を満たせていないことが20日、分かった。1968年に建築家・大高正人氏の設計でつくられたが「特殊な構造で一般的な補強方法がとれない」という。」

【平成28(2016)年3月18日】
県立中央図書館の一時休館のお知らせ(千葉県立図書館)
「県立中央図書館は、耐震診断により1階の展示ホールや2階の一般資料室など、建物の一部で耐震強度が不足していることが判明しております。」
「下記のとおり一時休館し、一部耐震不足箇所の立入制限及び利用場所の変更等の安全対策を行うことといたしました。」

【平成29(2017)年12月9日】
千葉県立図書館、1館集約へ 利便性向上、経費節減も 2館は譲渡など検討 千葉県教委方針(千葉日報)
「千葉県教委は、現在3館ある千葉県立図書館を1館に集約する方針を固め、図書館の在り方を諮問する有識者審議会へ先月、示した。」
「集約先と目される中央図書館は老朽化もあって建て替える考えで、文書館などとの一体整備も検討している。」

【平成29(2017)年12月13日】
千葉県立図書館、「中央」に集約 審議会13日にも答申、利便性向上図る(産経ニュース)
有識者らの審議会は、図書館機能を中央図書館の1館に集約し、利便性の向上を図ることを柱とする答申案をまとめ」
「集約先の中央図書館は建築から約50年が経過し、かねてから耐震不足が指摘されていた。構造が特殊で耐震のための改修工事も困難とされている。(中略)「1館集約には中央図書館自体の建て替えが現実的」という。」

【平成29(2017)年12月28日】
「千葉県立図書館の今後の在り方検討事業」業務 概要版(PDF)
「老朽化が著しい中央図書館を含めた千葉県立図書館について、(中略)県立図書館として求められる役割・機能、施設整備の方向性などの検討に資するため本調査を行った。」
「III. 県立図書館の整備体制別のコスト面の比較検討
  比較検討を行う3パターンと条件設定
    1 館体制:中央を建替え、1館に機能集約するパターン
    2 館体制:中央を廃止し、西部/東部の 2 館に機能集約するパターン
    3 館体制:中央を建替え、西部/東部は大規模改修を行い、3 館体制を維持するパターン
  結論:3 館体制>2 館体制>1 館体制の順となる。」

【平成30(2018)年1月19日】
千葉県立図書館基本構想の策定(千葉県)
千葉県立図書館基本構想(PDF)
千葉県立図書館基本構想の概要(PDF)
「中央図書館については、平成18年度に実施した耐震診断の結果、耐震不足が判明しました。さらに、耐震改修工事を実施するにあたって平成24年度に改修計画事前調査を行ったところ、建物の柱の上に梁がないという特殊な構造であるため一般的な補強方法が取れず、改修工事は技術的な難易度が極めて高いということが報告されました。
現在、施設の一部の立入りを制限し、利用者に不便が生じています。」(基本構想 P.16)
「中央図書館については、平成24年に実施した改修計画事前調査の結果、耐震改修が技術的に難しい問題を抱えていることが判明しており、他にも改修に伴う工事費の不経済性、建物の老朽化やバリアフリー不足、書庫不足などの様々な問題点を考慮すると、建物自体の建替えを最も現実的な選択肢として検討する段階にあると言えます。」(基本構想 P.24)
「総合的に判断すると、県立図書館は現状の3館体制を改めて、1館に機能集約を図った上で、図書館機能を高めていくことが適当と考えます。」(基本構想 P.26)「総合的に判断すると、県立図書館は現状の3館体制を改めて、1館に機能集約を図った上で、図書館機能を高めていくことが適当と考えます。」(基本構想 P.26)

【平成30(2018)年1月19日】
県立図書館 建て替えへ 場所、規模を検討(県教育庁)(日刊建設新聞)
「現状3カ所にある県立図書館機能を1館に集約することなど、大意は案のまま生かされることとなった。」
「県立図書館は現在、中央図書館のほか、西部図書館と東部図書館の3館体制だが、これらを合わせても蔵書の保管が容量の90%超に達するなど限界状態にある。加えて、昭和43年の建設で築50年が経過するなど老朽化している上、増築が重ねられた中央図書館(地下2階地上5階建て延べ6171平方m)は、先の調査で耐震補強が困難と判定されており、3館の合計延床面積約1万3000平方mを上回る規模の建物が必要だと見込まれている。一方で、高さ制限もあることから、現在地での建て替えは事実上厳しい状況となっている。」

【平成31(2019)年3月1日】
千葉県立中央図書館の保存活用に関する要望書(日本建築学会)(PDF)
「千葉県立中央図書館は、(中略)戦後日本を代表する建築家の 1 人である大髙正人の設計で建てられたものです。本作は、構造家・木村俊彦が考案した「プレグリッド・システム」と呼ぶ、プレキャストコンクリートになる柱・格子梁をポストテンション方式のプレストレストコンクリートで結合して建築空間を造るというプレファブリケーションを全面的に採用し、これを芸術的表現にまで高めたというところに 1960 年代の時代的特質を顕著に示し、かつ高い建築的価値が認められるものです。」
「千葉県立中央図書館は、大髙正人が自らの建築作法として掲げた「PAU」(P:Prefabrication / A:Art& Architecture / U:Urbanism)の統合という理念を極めて高い水準で実現させたものとして、優れた歴史的・文化的価値を有する貴重な文化資産となるものです。」
「千葉県立中央図書館の歴史的価値について改めてご理解をいただき、是非このかけがえのない文化資産の価値を最大限に考慮し、かつ他用途への転用も視野に入れた柔軟な保存活用を行っていただきますよう、格別のご高配を賜りたくお願い申し上げる次第です。」

【平成31(2019)年6月20日】
新千葉県立図書館は青葉の森に 3館集約、文書館も併設(産経新聞)
「3館に分かれている県立図書館を1館に統合し、県立青葉の森公園内に整備する基本計画案を公表した。」
「新施設は地上2階地下1階で、延べ床面積約1万7000平方メートル。新図書館の閲覧スペースには約15万冊を置くほか、文書館には公文書換算で約50万冊を保存する。」
「中央図書館が老朽化していることもあり、県立中央博物館もある同公園内に新施設を建設することになったという。」

【平成31年(2019年)8月27日】
「新千葉県立図書館等複合施設基本計画」の策定について(千葉県)
「新千葉県立図書館等複合施設基本計画」(PDF)
「新千葉県立図書館等複合施設基本計画」の概要(PDF)
「今後は、本計画に基づき、新施設を県立青葉の森公園内に整備し、「文化情報資源の集積と活用を通じて、知の創造と循環を生み出し、光り輝く千葉県の実現に貢献する」という基本理念の実現に向けて、取り組んでまいります。」

【平成31年(2019年)8月27日】
「新千葉県立図書館等複合施設基本計画(原案)」に関する意見募集結果について(千葉県)
「新千葉県立図書館等複合施設基本計画(原案)」に関する意見(PDF)
「意見の概要:現在の県立図書館の建物の保存と活用をはかってほしい。中央図書館の保存活用に関する日本建築学会からの要望書に対する誠実な回答を希望する。
県の考え方:中央図書館の保存活用に関する日本建築学会からの要望書への回答については、現在、検討しております。」(意見No.15)


■ その他参考

千葉県立中央図書館(1968)
所在地:千葉県千葉市市場町11-1
意匠設計:株式会社大高建築設計事務所
構造設計:木村俊彦構造設計事務所
設備設計:井上宇一研究室、大瀧設備
施工:戸田建設
構造:プレストレスト・プレキャストコンクリート造一部鉄筋コンクリート造
敷地面積:5,600㎡
建築面積:1,900㎡
延床面積:6,171㎡

いま見ても斬新なプレキャスト工法 千葉県立中央図書館
DAAS
千葉県立中央図書館を訪れてー大高正人、木村俊彦ー
千葉県立中央図書館保存活用に向けての活動記録
群の秩序とプレグリッドシステム : 木村俊彦 千葉県立中央図書館
「県立中央図書館、耐震基準下回る」 インフラの老朽化にどう対応するか
千葉日帰り建築めぐり
日本の佇まい:建築探訪〜千葉県立中央図書館
現在の千葉県立中央図書館の建築について調べている。関連資料はないか。
うらくんのページ〜千葉県立中央図書館
千葉県立中央図書館に行きました

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