見出し画像

円安の要因分析にGDP比較の視点が欠如 - ChatGPT を使ってみたらとてもお利口で ・・  

円安の報道を見ながら感じたのは、誰も経済のスケールについて論及しなかった点である。現在の、2022年から2年半に及ぶ歴史的円安(円弱)について、国力の低下という抽象的な議論はされたが、経済規模の推移を数値で比較分析する視点と説明がなかった。円弱がなぜ起きたのかについて、マクロ経済の最も基本に立ち戻っての考察と了解がない。その点が不満で落胆を覚えた。日本とドイツのGDPを比較すると、この30年間でドイツ経済は2倍に拡大している。日本経済の成長はゼロ。日本とアメリカのGDPを比較すると、アメリカは30年前の何と7倍に拡大している。世界全体のGDPは30年間で3.6倍の大きさになっている。いつも言っていることだが、経済は数字の世界であり、経済活動のサイズとスケールを客観的に押さえるところから認識と思考を出発させないといけない。

これだけ長く経済成長が止まり、停滞と萎縮を続けている国は珍しい。きわめて例外的な存在であり、世界経済の中の奇態と呼べる病理現象である。日本の経済力は相対的にどんどん小さく弱くなり、製品や技術の競争力を劣後させ、世界経済の中で地位を低下させている。そこから考えれば、通貨円の価値が低くなり、金融市場で安く売られるのは当然だ。1ドル100円の線を維持したければ、他の先進国と同じように30年間で経済規模を2倍から3倍に拡大する必要があった。何度も口を酸っぱくして言っているけれど、30年間で経済規模を2倍にするのは普通のことで、どこの国でもできている当然のことなのだ。異形の異端を演じているのは日本と北朝鮮ぐらいである。道を誤らず周囲と同じように政策を舵取りし、人並みの速度で歩いていれば、日本のGDPは1000兆円から1500兆円になっていた。

GDPが2倍になっていれば、税収も2倍になり、政府予算も2倍になっていただろう。ドイツの平均年収は25年間で1.7倍になっている。韓国は25年間で給料が2.7倍になっている。物価も上がっているのだけれど、全体として平均して国民一人一人が豊かになり、社会保障の国家支出が増えていることは間違いない。だから、韓国からの訪日観光客が増えている。日本より強烈な少子化が進行しているのに、韓国社会は日本ほど気分と状況が真っ暗ではない。経済のファンダメンタルズが、他諸国は時間の経過と共に向上している。日本は成長が止まったまま。アメリカから見て日本経済は過去の4分の1の大きさになっていて、EUから見て2分の1に縮んでいる。円弱になるのも無理はない。そして、日本国内は、その問題に対する危機感がなく関心がない。むしろ、脱成長を歓迎する呪術信仰が左翼を中心に頑迷に蔓延っている。

なので、円弱を根本的に問題解決しようとするなら、経済規模を大きくすることを考えないといけない。世界のGDPの中の日本のシェアを元に戻すことを構想し、そのチャレンジを具体的な経済政策にして取り組まないといけない。今のように、インバウンドの乞食経済の路線の延長ではそれは無理だ。他国と同じように、半導体やソフトウェアや生成AIやドローンや航空機や自然エネの産業で、製造業の最先端分野で競争してシェアを取って目的を実現しないといけない。どこの国も課題と目標は同じであり、狙う地平と果実は同じである。要するに、日本は、現時点で技術力を失った後進国なのであり、それゆえに、為替において輸出でプラス条件を持つ位置にいる。だから、明治国家や戦後国家のように、追いつき追い越せの国民運動をしないといけない。置かれた立場と条件はASEAN諸国と同じである。教育と努力で出発するしかない。

一般論的にはそういうことになる。具体論として、私が首相だったらどうするかと言うと、例えば生成AIでは、韓国・台湾と共同して新製品開発するという活路が思い浮かぶ。本来、LINEなどはそういう方向に進めて、世界標準のプラットフォームに育て、アジアで利用人口のベースを押し広げるべきなのだ。韓国・台湾との技術基盤連携を成功させられれば、そこにインドを誘って巻き込んで行くという戦略と展望もあるだろう。半導体もそうだし、自動車の車載OSもそうだし、すべてその路線で共通開発環境を整えればいい。今、そこで覇権競争しているのは、米国、中国、EUの三者である。その一角に割り込んで競争力と存在感を発揮し、市場を制する勢力となるためには、日本は、仕様共通化の仲間を集めて軍団を形成しないといけない(現実からは机上の空論だが)。

明治国家のように一から始めればいい、というのが私の発想と提案だけれど、明治国家と違って、今の日本にあるのは、内部留保という国民経済の大型貯金である。昨年の7-9月期の法人企業統計では、大企業の内部留保は528兆円と報告されている。政府予算の5年分、税収の8年分の巨額のストックが実在する。こんな膨大な内部留保を持つ国は他にない。国民が汗水たらして働き、生産と消費をした結果が、企業会計の経理過程で純利益となり、累年加算されて絶倫的に資本蓄積されている。まさに宝の山。GDPを大きくする、経済成長するための原資は十分にあるのだ。活用の方法は様々だろう。が、ともかく原資は存在する。なので、れいわ新選組のように、打ち出の小槌のように国債発行で財源を作れとか、国家の借金は国民の借金ではないなどと言う必要はない。MMTは不要である。

前回の記事で紹介した - 購買力平価水準からの実勢為替の乖離の議論 - 唐鎌大輔が、新NISAが円安を加速させていると指摘していて、円安の要因分析の一つとして興味深い。個人が新NISAの仕組みを使って海外投資する動きが活発になり、そのとき円を外貨(ドル)に替えるため、円売りに拍車がかかっている。2/24 の日経記事では、毎月3250億円の円売りになると試算されていたが、5/25 の唐鎌大輔の解説では、何と4か月で4兆円の円が海外に出ていた。投資信託委託会社による海外の株式や債券などへの投資が、24年1月は過去最大の1.3兆円を記録していて、24年1月から4月の合計では4兆円程度となっている。前年23年は1年の合計が約4.5兆円だったので、このままのペースだと前年の3倍に膨らむ勢いだ。この動きは前から予想していたことだが、報道1930での堤伸輔などの扇動もあって、個人がどんどん円預金を外貨資産に替えている。

前回の記事で、勤労者世帯の平均貯蓄額が減り、特に定期預金が減っている点を示した総務省家計調査報告を案内したが、この変化は、個人の新NISA開設と資金移行も大きく影響していると思われる。政府が主導しマスコミが宣伝してオーソライズしているから、みんな安心して新NISAに資金を移してしまう。また、円資産を保有していると価値が下がって損をし、ドル資産(米株・米債券)を持っていれば価値が上がって得だという観念が刷り込まれ、誰もが米金融商品にラッシュする傾向と構図が固まっている。多少の定期預金を持っている中所得層の行動としては、至極当然の動きだろう。金融庁が中学高校生向けに「金融投資教育」の指導を始め、投資を積極的に奨励するご時世で、誰も歯止めをかけたり警告を発したりしないから、日本国民の日本円はどんどんドル資産に置き変わって行く。ダウやS&Pやナスダックを買い支える原資として米国市場に流れ込む。

そして円安が加速する。輸入品が高騰して物価高になる。タコが自分の足を食っているのと同じだ。私は、日銀は金利を引き上げよという立場だが、金利を上げれば、国内の銀行預金にも金利が付く環境に変わるのだから、したがって、個人預金の外国投資(円売り・ドル買い・米株買い)へのドライブを抑制する効果となり、為替にも好影響が及ぶだろう。以上、ここまで、(1) 円安の原因を探る議論に経済規模比較の観点がないという問題、(2) 通貨円の力を元に戻すためにGDP拡大が絶対に必要で、その原資として内部留保を活用せよという主張、(3) 新NISAを使っての個人による米株買いが円安を加速させている弊害、の三点を論じた。遠くない日程で解散総選挙があるが、その際は、政治とカネの問題だけでなく、円安問題にフォーカスして、経済政策について与野党で徹底論争していただきたいと思う。どうやって円安・物価高を止めるか、真剣な議論と公約の提示を期待する。

最後に、余談として、この稿を準備するために ChatGPT を利用した顛末をご紹介したい。(1) の論点を明解に説得するべく、アメリカとEUと日本のGDPの推移を示すグラフが欲しかった。検索しても見つからないので、ChatGPT にデータ処理をお願いすることにした。結果は以下である。

すぐに作成・描画してくれて、ありがたく、手間が省けてよかったと思い、便利な道具だと感心したが、一応、数字が正しいかどうか確認することにした。世界経済ネタ帳でアメリカのGDP値をチェックした。そうすると、2023年は27兆3570億ドルになっている。ChatGPT のグラフは25兆ドルを少し超えた点を示している。どうやら違う数字を使っているらしい。ちなみに、2022年のアメリカのGDPは25兆7440億ドルである。Google 検索で検証すると、世界経済ネタ帳と同じ27兆3570億ドルと出力される。結論として、ChatGPT がグラフに用いた数字は不正確だと判断せざるを得ない。処理にエラッタがある。杜撰だ。という次第で、ChatGPT は使えないと確信する残念な経験と総括になってしまった。


産経新聞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?