メモリー3
無題
平成2015年12月16日 23:55
けだるい夢を見た。
私が朝起きると、居る筈の無い妻が隣にいた。
見るからに病弱な女だ。やせ細った頬に、華奢な首に、首周りのよれた寝巻のTシャツの間から見える鎖骨の貧相さ。まるで私が女になったら、こんな風になっていただろうという姿だった。
その女が、ふと隣にあったペットボトルの飲み物をこぼしてしまった。白濁とした液体が畳の上に広がると、またたくまに被害は広がる。
「この馬鹿、なにをやっているんだ」
私は静かに叱咤し、これもまたなぜか手元にあった雑巾を手に畳の上をふきはじめた。
すると、そこがやけに薄暗い場所だと気がついた。
長い廊下だ。
その両端に、ふすまが幾つも並び、その中から何やら光が漏れている場所もある。
しかし、そんな事よりも、私はその廊下を濡らす、この汚らしい白濁液をふき取る事が大事だった。
不思議な程奥まで続く水を吹き続けていく内、ふと、ひとつのふすまの間に男が一人横になって寝ているのが見えた。
その瞬間、なぜか私は理解した。
ああ、客だ。
客が部屋でくつろいでいる。
そうだった、私はこの民宿の経営者で、彼は客。いや、彼だけじゃない、他にも今日は何人か泊まり客が来ていた筈だ。
すると、いつの間にか自然に廊下にあふれていた液体は消え、私は民宿のロビーへと向かった。
ロビーに付くと、そこにはもう何人かの宿泊客が居た。皆酷く焼けていて、開け放たれた窓辺から、いっきに潮風の香が拭いてきた。
「おはようございます」
私がそう挨拶すると、馴染みの客の一人が私の方を向いて、大きく片手をあげた。
「マスター!今日は良い天気だね!」
「ええ、本当にそうですね」
真黒に日焼けした少しやせ気味の中年男性は立ちあがり、私に「一緒に散歩にいかないか」と笑った。私も釣られて笑い、共に外へ出る。外には青空と、視界に広がる大きな海があった。波の音…潮風…カモメの鳴…海沿いの白い歩道を歩きながら、なんともいえない心地よさに、私の胸は安らいだ。男性について歩いて行くと、大きな橋が見えた。端下たは丁度陰になっていて、健康的な海もそこだけ黒く淀んで見えた。
「この海もだいぶ変わりましたな」
立ち止り、男性は白ペンキのはがれかけた木の柵へと寄り掛かった。
「昔はこんなじゃなかった。こんなんじゃ、けしてなかった」
「昔ですか…」
「そうです。貴方も覚えているでしょう?小さな頃、この海はこんな姿をしていなかった」
「そうですか?」
「ああ、もっと大きくて、もっと青くて、もっと広くて、もっと深くて、得体の知れない、美しいものだった」
「今でもそうでしょう?ほら、こんなに海は綺麗だ」
「いいや、その海じゃない。君の海は、あそこだよ」
そういって、男はゆっくりと腕をあげ、指を指す。その先は橋の下だった。
「同じなのは、得体の知れない何かっってことだ。何かってのは、何かが居るってことさ。あそこには、恐ろしい、何かが居る」
私は急に恐ろしくなって、未だ指差したままの男の背から後ずさった。そして、悲鳴にも近い声で叫んだ。
「あれは!あれは私の海じゃない!」
体が震えているのがわかった。
怖い。
あんなものが、あんな場所が、私の海なわけがない。
「私の海はあっちだ!あんな狭くて、暗い場所じゃない!」
「…本当にそうかね?」
男は腕を下ろし、ゆっくりとこちらに振り返った。
冷たい目だった。
さっきまで感じていた夏の暑さが、どこかへ消えている。
「あそこだよ、君の海は」
「…違う…ち、違う……」
「昔はね、たしかにもっと大きかった。そうだとも、君がいいはるあの海のように、もっともっと大きかった。けれども、もう君の海はこれしか残ってないんだ。こんなにも黒く淀んだ、小さな海しか残ってないんだ」
悲しそうな声で、男は言った。
目頭が歪んで、今にも泣き出しそうな顔をして、男は眼を伏せた。
「もうあきらめるんだ。あそこに住む怪物に食われる前に、はやく、君は海を捨てるんだ」
「いやだ!海は捨てない!」
「あきらめるんだ…あそこはもう海じゃない。ただ、気味の悪い怪物が棲む、黒い水たまりなんだよ…」
やめてくれ。
やめてくれよ…なんで、なんでそんな残酷な事を言うんだ。
私の海は、あんなにも汚れてしまったというのか?あんなにも狭くて、黒くで、淀んでしまったというのか?ああ…今、あの奥でなにかが動いた…助けてよ…ねぇ…なんでそんな悲しそうな顔をしているんだよ…なんで、そんな残酷な事を言うんだよ…ねぇ…なんで助けてくれないんだよ
父さん………………………………
■コメント
2015年12月15日 23:27
初めまして!σ(´∀`●)アタシ○○さんのブログ大好きです+(〃σIσ)゚♪.ィィ゚
実は最近、○○さん自身にも興味がるんですけども…壁|ω-o)゚+. ポッ
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