黒いあいつの巣窟で4年暮らした
お題から選んで書くことにした。 #はじめて借りたあの部屋 とのことなので、大学時代に住んでいた、我らがソルクレストの話をします。かっこいい名前のアパート。まあ、タイトルのとおりなんですけど。
まず、最初から間違ってた。内見したときはまだ前の人が住んでたんだけど、めっちゃ汚かったもん。絶対あのときもいたもん、ゴキブリ。
でも住んで最初に襲ってきたのは蜘蛛だった。体もちゃんと太くて足もちゃんと太い、蜘蛛。クモとかかわいいもんじゃない。蜘蛛。
そのときは泣きながら玄関に追いやって逃がした。すごい大変だった。
次の日、トイレに同じ蜘蛛がいた。同じかどうか知らないけど、同じようにちゃんとした蜘蛛がいた。しかもお尻丸出しのときに気付いたから地獄だった。布があるだけで安心感が違うよね。
戦う気力がなかったのでそのまま大学に行った。友だちに相談したらゴキジェットで殺せとのことだったので、買って帰ることに。
数時間経ってるにも関わらず、蜘蛛は同じ場所にいた。トイレ。舐めてやがる。
わたしは戦った。蜘蛛も懸命に逃げた。響く怒号。蜘蛛の断末魔。
蜘蛛って死ぬとき足を一本ずつ畳んでゆっくり死ぬんですね。知りたくなかった。
その後、その蜘蛛をどうやって処理したのかは覚えてない。覚えてるだけで生きていられないほどのトラウマってやつ・・・?
そうして蜘蛛との死線を切り抜け、強くなったわたしのもとに、あいつが現れた。せせらぎ。
ゴキブリという名前がいけない。せせらぎという涼やかな名前で呼んだら嫌じゃなくなるかもって前に読んだ小説に書いてあった。それに習ってわたしもせせらぎと呼ぶこととする。
ある日突然、部屋にせせらぎが現れた。
わたしは北海道出身なので、せせらぎを見たのは初めてだった。どうやって戦えばいいのかもわからなかった。ゴキジェットを取りに動くのも怖かった。
初戦は、完敗だった。
手も足も出なかった。何もできないでいる間に、せせらぎはまるで自分の家に帰るかのように冷蔵庫の下に消えていった。
わたしはその後、朝までベットの上で放心していた。溢れる屈辱感。悔しさ。涙で濡れる枕。そうだ、負けていられないのだ。
わたしは走った。せせらぎ界の核弾頭ミサイル、バルサンを求めて。
買って帰って、すぐにぶっ放した。わたしの前に姿を現したのが間違いだったんだよ。家族もろともやってやった。
そう思ってた。
数日後、帰宅すると、玄関にまるで待ち構えるようにせせらぎがいた。
勝ったと勘違いしているわたしをあざ笑っているかのようだった。でも、そのときのわたしも一味違った。バルサンを買った際にゴキジェットを追加購入し、玄関とリビングの二箇所に常備することにしていたのだ。
すぐさまゴキジェットに手を伸ばして戦った。
せせらぎが出ては殺し、逃げられ、殺し、逃げられ・・・
そうして4年が過ぎた。最終的にはせせらぎの子もいた。ちっちゃいせせらぎがいた。完璧にうちのアパートで繁殖してた。巣。ソルクレストと言う名のせせらぎの巣。
それ以来、わたしは決めました。部屋はきれいに保とうって。