見出し画像

ヒーロー免許滅の刃

「遅かったじゃないか。けちゅ。」

「お、お前は!!!」




「桐内さん!!」

「よぉ〜。お前らがチンタラやってっから、様子を見にきたぜえ〜!!」

ニコッと太陽のように笑う桐内さんは今年で40歳。今はヒーローではなく2人娘のパパが仕事。

「今まで戦ったどんな怪獣より、娘たちの方がよっぽど手強いぜ!」

なんて話を飲みながら話す笑顔はヒーロー時代からなにも変わっていなかった。


「この次は、お前らが知らないトレーニングだ。油断するんじゃないぞ。」


「「「「はいッッ!!」」」」




次のミッションはカンサツトレーニング

360度から聞こえる魑魅魍魎の鳴き声の中から、指定された生き物の声を聞き分けるトレーニング。


お題は「イルカ、トンビ、トラ」


俺たちは背中合わせで四方を向き、耳を済ませる。音がする方のボタンを選択できればミッションクリア…だが。


グォオオオオオオオギャァアアアアアアアアア!!!!!!!

音がした瞬間に気づく。この声は、数多の生き物が死ぬ瞬間の声を集めている。なんて悪趣味なんだ…。

この悲鳴の中、3匹の音を聞き分けるのは至難の技。おそらく新人ヒーローであれば精神崩壊してしまうだろう。

案の定ひろきはハナハナと腰を抜かし失禁している。仕方ない。ここは俺たちが当てるしかない。

時間はどんどん経過している。

集中しろ!聞き分けるんだ!!







「イルカの死ぬ時の声…ふふふ。綺麗な声だね」





ピンポーン!!

りちゅがイルカの声を見つける。イルカの死ぬ声を当てるなんてサイコパス極まりないが結果オーライ。

あと2匹。一体どこから声がしているのか。







「トラの死ぬ声…   たしかこれだったかなぁ」








ピンポーン!!

ゆちゅが正解を導き出す。そしてどうやら過去にトラを殺したことがあるようだ。

だが、結果オーライである。


残るは1匹。これは…俺が決める。


最後の動物はトンビ。気高いあの声を…聞き分けるんだ…!!!

耳を済ませ!集中するんだ!!








「…ゅ…け…ち…」


ん?なんだこの声は…




「け…ゅ…たす…て…」



この声…まさか…







「けちゅ…たすけて」






さちゅ!!!!


俺は思わず、さちゅの声のボタンを押してしまう。そして…


ブブーー!!

ミッション不合格!ミッション不合格!


「よぉ〜やっぱり引っ掛かったな〜?かっかっか!」

「桐内さん!どうして!?」


「おめぇの油断を誘う為、さちゅの悲鳴を流したのさ。お前ならさちゅの悲鳴を聞いたら、体が勝手に動いちまうと思ってな!」

「そんな!…クソ。まだ、俺は未熟だったということですね。ミッションは不合格。俺はここで去ります。」



「…いんや、おめーら全員合格だ。」



「え?」



「確かにミッションは失敗だ。だが、ミッションよりも仲間を優先する勇気。俺は、そんな暑苦しいヒーローがいてもいいんじゃねえかと思うんだ。」 

「桐内さん…」



「なぁに。ヒーロー好きなファンとして、俺はそーゆーヒーローを見ていてぇのさ。


けちゅ、ゆちゃ、りちゅ…


お前ら、俺に夢、見せてくれんだろ?」

ニコッ





やれやれ。

結局俺たちは桐内さんの手のひらで転がされていたってわけか。まったく。あの人には敵わないな。

俺たちより年上なのに、時折はるか年下の弟のようにも見える桐内さん。俺たちはそんなあの人の夢を背負ってヒーローを続けている。

そうだ。まだここで終わってはいけない。


「次は…アタックトレーニングだよ!」

りちゅがそう皆に告げる。

「足もしっかり使おうね!」

ゆちゅもやる気満々。これなら次は大丈夫そうだな…

そんな時だった。




「…僕は…僕は…!!ひひぃ!!」



次回、ゆちゅ覚醒。怒涛の200連パンチ

お楽しみに!!