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事前確定届出給与の届出書式に支給”日”まで記載があることの問題~法定事項以上の制限を加えた自らの届出に拘束されるか~

(本日は、もしかしたらどこかに寄稿するかもしれない論考を下書き的に公開するものです)

1.問題の所在

法人が役員に給与を支給する場合、法人税法上損金として認められるのはいわゆる①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与の三点のみである(法人税法34条)。このうち、②については届出とある通り、事前に所轄税務署に届出が必要となる。

この届出書式(「事前確定届出給与に関する届出書」)は国税庁がWeb上で公表しているが、そこでは付表1にて、支給時期(年月日)の記載を求めている。本稿で問題とするのはこの書式において年月”日”の記載を求めているという点である。

これがために、この届出の日に支給せずに、1日たりとも日がズレると損金算入が認められないのではないかという言説がときおり見られ、実務上混乱が生じているように思える。

筆者は、この”日”まで記載を求めるのは法令上の根拠を欠くものであり、実務に無用の混乱を招くものであるから早急にその書式を改めるべきであると考えている。以下これについて述べる。

2.法令上求められているのは支給”時期”である

事前確定届出給与の規定は、法令に定められたもの以外は原則損金不算入とする扱いを定めた法人税法第34条から始まって、法人税法施行令第69条第4項を挟み、届出をする具体的な事項を定めた法人税法施行規則22条の3第二項へとつながっていく。その施行規則22条の3第二項は9号までからなる条文からなるが、その3号においては以下のような規定となっている。

事前確定届出給与の支給時期並びに各支給時期における支給額又は交付する株式若しくは新株予約権の銘柄、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める事項及び条件その他の内容

ここで見るように、法令上で届出事項として規定されているのは「支給”時期”」であって「支給”日”」ではない。また、「支給時期」を別途定義した規定は見当たらない。さらには、事前確定届出の届出事項は施行規則22条の3第二項に詳述されるほかに、法令上で別途書式によるといったことが定められていない。

したがって、法令上はあくまでも支給時期を記載すれば足りるはずである。ではあるが、国税庁の用意する書式に「支給年月”日”」の欄が設けられているのである。

支給”時期”と規定されておりその定義規定がない以上、その意味するところは一般的な文理解釈に委ねられることとなる。いうまでもなく「時期」とはある一定の期間を指すものである。ピンポイントにある特定の日をさすものではない。そのため、支給時期を示すための届出書式上は、せめて〇月下旬、といった表記で良いはずである。

繰り返すが、現在国税庁が用意する事前確定届出の書式は、法令上で定められているものではない。ではあるものの、そのいわば任意の書式において”日”という、法令よりも制限されたことを要求しているのである。

3.自らした届出である以上それに拘束されるのか

届出者は届出により法令で求められる要件よりも強い制限を自ら課すことになっているが、かように法令を超える制限となったとしても、それはひとたび自らが届出をした結果であることから、その内容には拘束されるという意見があるようである。

ここで「届出」につき、行政手続法第二条は以下のように規定している。

七 届出 行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。

事前確定届出給与の届出はこの「届出」にあたると考えられる。ここでの届出は一定事項の通知をするというものであるが、届出内容自体に拘束されることになるのであろうか。

ところで、届出と似た概念として「申告」がある。行政手続法上で定義されている用語ではないが、我々税理士にとっては申告納税制度に身を置くものとして極めて馴染んでいるものであろう。

ここで申告納税制度は「納税者のすべてが、租税の意義を認識し、適正な申告と納税を行うことにより、自主的に納税義務を遂行するようにすること」がその理念とされる。換言すれば「納税義務の確定について納税者に第一次的な役割が与えられている」ということができる。すなわち、自らの義務を自ら確定させることに特徴がある。

なるほど「申告」は義務と密接に結びついているが、果たして「届出」にそこまでの結びつきはあるものなのであろうか。自ら届出をしたものに拘束されるとするのは、「申告」の概念にとらわれている見解ではなかろうか。

4.法令上の裏付けのない届出に縛られるのは信義則に反する

2.で述べた通り、現行の届出様式に”日”まで記載させているのは法令上の裏付けのないものである。にもかかわらず、国税庁が用意した書式に則って届出をし、届出をした以上それに拘束されるとしたならば、これは信義則においても到底許されるものではないであろう。

法令上はそこまで求めていない事項を、行政庁が任意で作成した書式により要件を厳格にし、行政庁がその届出書式記載要件に合致していないことをもって不利益処分する、などということは国民を欺く行為そのものである。

もしこれがまかり通るのであれば、法令上の権限を越えて、税務官庁が独自の要件を課すことを認めることに外ならず、日本国憲法84条に定める租税法律主義をないがしろにするものである。

5.結語

以上の通り、国税庁が法令上の求めるものよりも厳しい要件を課す書式を用意することは、極めて問題があると考える。

それとも、国税庁はあくまでも任意の書式を用意したに過ぎず、法令上の要件を満たしたものであれば届出者が自ら作成した届は受け入れるという立場をとるのであろうか。

仮にその立場をとるにしても、信義則上許される態度ではなく、冒頭に述べた通り無用の混乱を招く結果となるのであるから、早急に国税庁の用意する書式を法令に則ったものに改めるべきであろう。



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