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よんのばいすう4-20 2021.4.20

穀雨〜天からの恵み

二十四節気の第六、4月20日頃から始まるのが「穀雨」。晩春の雨が田畑に降り注ぎ、すべての穀物に水分と栄養が与えられる頃。七十二侯では「葭始生(あしはじめてしょうず)」。水辺の葭が芽吹き、野山の緑が輝き始めるという意味だそうです。

Robinさんのyoutubeからチョイスしたのは、

というわけで…
ヨーコ的掌小説『雨に降られて』

天気予報を確認し、今日は絶対雨が降るからと長い傘を持って家を出たのに、だいたいは結局降らない。それが長傘ジンクス。反対に、傘なんているわけない。そんな晴れた日に限って、突然の雨に降られるのだ。あれは、まさにそんな日だった。

コンビニに入る時は晴れていたのに、出るとざーざー降り。仕方ないから、もう一度店内に戻り、ビニール傘を買った。気を取り直して駅に向かう。忘れてしまったハンカチを買いたかっただけなのに。こんな日に限って雨に濡れたくはない。だって、あの人とようやく会えるんだもの。ネットで出会ったイケメンの彼。

しかし、今日はやっぱりついていない。駅についたらもはやホームに電車が滑り込んでいた。今から走ってももう間に合わない。ハンカチを買っていた時点で電車を1つ見送っているから、ただでさえ余裕がなかった。そうだ、彼に待ち合わせに遅れることを連絡しなきゃ。そう思ってバッグの中のスマホを探した…その時初めて気がついた。充電していたスマホを家に置いてきてしまったことを。

「絶望」の2文字が、頭の中で噴水のように吹き上がる。彼に連絡したくてもスマホがなければ何もわからない。電話番号はもちろん、名前さえも実はフルネームを知らなかった。ここまで私の行く手を阻むのは何故なんだ。

急にすべてが虚しくなった。
「帰ろ」
涙も出てこない。家に着いたら彼に謝りの連絡をしよう。それしかない。もうこの恋はおしまいだろう。ぼーっとビニール傘をさし続けていたけれど、ふと周りを見ると、傘をさしている人は誰もいなかった。雨はすっかりあがり、空にはうっすら晴れ間も覗いている。街路樹のハナミズキが雨に洗われ、葉も花もキラキラと眩かった。

あれから、どれだけ連絡しても、彼からの既読はつかなかった。完全にふられたのだ。ただただ、あの突然の雨を恨んだ。

ネットニュースで彼が逮捕されたことを知ったのはその1週間後。SNSで知り合った女性を宝石店に連れていき、高額な指輪をローンで買わせる悪徳デート商法の男だったのだ。しかも偽名を使っていた。

もはや笑うしかない。
とりあえず、一時は恨んだ雨に今度は感謝状をおくろう。玄関の傘立てに置きっぱなしのビニール傘が、すくっと背筋を伸ばしたような気がした。

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