見出し画像

友部正人「一本道」をよむ

友部正人さんは日本を代表するフォークミュージシャンの一人…
というとこまでは僕も知っていましたが、それほど深く考えたこともなく。

ある日、図書館で詩集を漁っていると『友部正人』という名前が目に飛び込んできたので、手に取ったのです。半ば好奇心から手に取り、そのままお借りしました。

そしてよむ。あまりに印象的な、不意打ち的なセンスに、こうして文章を書いてみるほどには圧倒されたわけです。

読んですぐに『一本道』という詩にあたりました。どこかで聞いたか、と思い調べてみるとやっぱり。まずはお聞きください。

以下、歌詞(詩)です。

ふと後をふり返ると そこには夕焼けがありました
本当に何年ぶりのこと そこには夕焼けがありました
あれからどの位たったのか あれからどの位たったのか

ひとつ足を踏み出すごとに 影は後に伸びていきます
悲しい毒ははるかな海を染め 今日も一日が終ろうとしています
しんせい一箱分の一日を 指でひねってごみ箱の中

僕は今 阿佐ヶ谷の駅に立ち 電車を待っているところ
何もなかった事にしましょうと 今日も日が暮れました
あヽ中央線よ空を飛んで あの娘の胸に突き刺され

どこへ行くのかこの一本道 西も東もわからない
行けども行けども見知らぬ街で これが東京というものかしら
たずねてみても誰も答えちゃくれない だから僕ももう聞かないよ

お銚子のすき間からのぞいてみると そこには幸せがありました
幸せはホッペタを寄せあって 二人お酒をのんでました
その時月が話しかけます もうすぐ夜が明けますよ

ギターとハーモニカのシンプルな伴奏。
“歌う”と“語る”の絶妙な合間を縫うかのような歌唱。
歌詞に思いがこもり、それがメロディーにのって湧き出す。歌とは何か、その根本を丁寧に紐解くような感覚を覚えます。

そして歌詞(詩)。
「夕焼け」「一日が終わろうと」「日が暮れ」「月」「夜が明けます」。一日の中に起こる情景の変化と、心情の揺らめきを重ね合わせた構成。東京にくらす10代そこそこの若者(まさに自分)の思いを、思ったままに文章に起こしたよう。

都会に揉まれ、恋に悩み、道にさまよい。茜色の空を背景に、家路につくのであろう作者。そして、ふと意識的に見上げる夕焼け。自分の生きる道に思いを募らせながら月夜を見れば、幸せを予感し、そして朝が来る。

ひねりのない、言ってしまえば手垢がついた、慣れ親しんだ言葉の配列。
それにここまで感動できることがあるでしょうか。

あヽ中央線よ空を飛んで あの娘の胸に突き刺され

個人的に、この部分は特に。好きです。

“歌う”ことと“語る”こと。“歌詞”と“詩”。
ミュージシャンでもあり詩人でもあった友部正人さん。

明日も中央線を東に。
それでは、また。