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鬼が居ても洗濯

 「鬼の居ぬ間に洗濯」ということわざ。せっかく鬼が居ないときにやること洗濯かよ、と思わないでもないが、私はこのことわざのように気兼ねする人がいるときといないときとで結構態度が変わってしまう。 

 友だちといるときはリラックスしてヘラヘラしてても、初対面の人にはどこかソワソワする。それで今更ながら今年の抱負は「いかなる状況でものびのびできるよう努める」と決めたので、初対面でも誰でもある程度落ち着いて、気兼ねなく接することのできる人間なりたいんです。 

 それで先日行った温泉で早速そんなのびのび生きる人を見つけた。その温泉は温泉街というよりは住宅街にポツンとあるような割とこじんまりしたタイプの温泉で(そんな温泉にちょこちょこ行く)、そういう温泉は地元の人が多い。 

 その日は時間帯もあって私と小太りのおじいさんと2人きり。湯船につかってしばらくしてたら、「どこから来たの?」と話しかけてくださって「今年は雪が少ないですね」といった天気の話とか当たり障りのない話をしていた。多少人見知りではあるけれど話しかけられるのは全然いやではない。嫌ではないのだが、この天気とかのテーマで話がひと段落したあとの「さて次なに喋ろう」という妙な間が苦手で、この日も会話こそするのだが特段盛り上がるわけでもなく、5分くらい話して、ひと段落してしまい「さて次どうしよう」というシンキングタイムがあった。それで2人しかいないので会話を切り上げるタイミングもよくわからずなんか気を遣ってこの沈黙を苦虫かみつぶして享受していたのだが、このおじいさん、何も言わずに突然立ち上がって、そそくさと露天風呂のほうに行ってしまった。と思ったら、しばらくしてまた側によってきて話をしてきたり、とにかく自分のペースで話しかけてくるのである。 

 そう、こんな風にやっていきたいんだ私は、と。ある程度自分のペースでやっても、相手は案外気にしないものだ。それなのに私は変に委縮したりして、そのせいで自分のペースが乱れる。どこに行っても、誰にでもおんなじような調子でいられたらどんなに楽だろうと思っていたが、このおじいさんは自分のペースの免許皆伝者だった。当分はこれを目標にやっていこうと思う。新年からいいもの見れました。ありがとうございました。 

 鬼の居ぬ間に洗濯をし、鬼が居ても堂々と洗濯をする、そういう者に私はなりたい。 

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