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せり鍋と生姜醤油のラーメン

 なにか知らないものに出会ったとき、自分の知っている似たようなものを引っ張り出してきて「~みたいだね」と言ったりする。 

 これがあんまりよろしくない癖で、高校の頃に修学旅行で長崎へ行ったのだが(他校の子では公立なのに台湾や韓国へ行ったという人もいてこんなに違うかと思ったりしたが)、とにかく九州に行ったのがこのとき初めてだった。長崎は坂が多い、ところが私の地元も坂が多くて、思わず「地元に似てるね」とポロっといったが最期、「ここは地元のあそこに似てる」「あそこはここに似ている」と地元での例え合戦がはじまり、一気に雰囲気がぶち壊れてしまった。こんなことをすると、遠くへ来た感じが失せる。失せるのだが、「あーこれアレに似ている」となる感じがなぞなぞを解くような一種の爽快感があって、ついつい思ったことが口に出る。 

 それで最近気晴らしに長岡へドライブに行った。今年、新潟の沿岸部は雪が少なかったのだが、とはいっても内陸の長岡は雪も多いだろうと途中で気づき、よく考えずに行って大丈夫かなと不安だったのだが、内陸も例年に比べると雪が少なかったようで、道路もコンクリートむき出しで大変走りやすかった。温泉に入ってから、近くのラーメン屋へ寄ったのだが、このラーメンが少し独特なのである。 

 新潟は意外にもラーメン王国で、5大ラーメンなるものが存在する。「背あぶら」とか「あっさり醤油」とか細かいことは忘れたのだが、ケンミンショー曰く新潟県民はこの5大ラーメンを言えるらしい。ケンミンショーは色んな地域に宿題を置いていく。 

 それで「あっさり醤油」は新潟市とか「背あぶら」は燕市とか地域ごとに味が違う。長岡はというと「生姜醤油」で名前は聞いたことがあったがこのとき初めて食べた。醬油ベースで生姜の香りが強くて、ジンジンと辛い。 

 しかしこのときも、私はよくないことに例え癖が出てしまって、「せり鍋みたいだな」と思ってしまったのである。せり鍋は私の地元に突如として現れた郷土料理(笑)で、シンプルに言うと七草のせりが入った鍋なのだが、これが私が新潟へ行っている間にいつのまにか「ずっといましたけど」みたいな顔をして実家で出できてちょっとビックリした。郷土料理って案外突然生まれるものかもしれない。で、このせり鍋も、せりが薬味で香りが強く、醤油ベースでジンジン辛くて、この生姜醤油のラーメンと味が妙に似ているのである。 

 それで「似ているな」と思ってしまったせいで、はじめて食べたラーメンなのになんか鍋を食ってるような気分なってしまった。例えることはときに罪深い。 

 帰りに刈った田んぼに白鳥が数羽とまっているのを見かけた。これもあえて例えるなら「掃き溜めに鶴」的なやつである。 

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