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Y:95 逸脱するから秀逸になるのか

2024.1.14

私はバド・パウエル(Bud Powell)というジャズ・ピアニストが好きで、ベタではあるけれどもクレオパトラの夢は私の音楽再生回数の中でも上位に入る。

オーディオに凝っていた頃は、この曲を基準にして、音の良し悪しを決めていた。このBud Powellという人は、技巧派のピアニストと評価されているようで、素人の私が聴いてもどんなふうに指を動かせばこうなるんだと思うようなわかりやすいすごさがある。人物像としてはWikipediaで見ると、こんな記述がある。

1940年代後半から50年代初頭にかけて音楽面の最盛期を迎えるが、50年代中期以降は麻薬やアルコールなどの中毒に苦しみ、精神障害(統合失調症[3])を負う。しかしながら、不調期の録音においても、「クレオパトラの夢」などの鬼気迫る演奏を聴くことができ、これを含めてパウエルの個性として評価する声が多い。

Wikipedia: バド・パウエルより

虚空を見つめながらピアノを弾いているライブ映像を見ると、常人では見えない何かが見えているのかなと思ったりして、それが、超絶技巧をもたらすんじゃないかと思ったりもする。

Bud Powellのように、ある分野(特に芸術)において、超人的な成果を出す人は、(社会的)規範から逸脱した何かをしていることがある(そういうエピソードをよく見聞きする)。そこには、逸脱をすることが、偉業を成し遂げる原動力になっているかのような話もある。

最近、ある芸人が性加害の疑いがあるというので、活動休止になった。それが事実かどうかは、現時点ではわからないが、報道の論調としては、権力の絶頂にあって、誰も彼の言動を諌めるような人がいなくて、このような逸脱した行為が行われたというようなものだ。

自分の年代の人なら、多くの人がこの芸人のお笑い番組を見て育ってきただろうし、好きな人も多かったと思う。一世を風靡したお笑い番組をいくつも作り出すのに貢献してきたと思う。

最初こそ、当人が番組で何か反論するような雰囲気だったが、直近では活動休止となって、番組も差し替えなどになりそうだ。場合によっては、もう地上波に出演できないんじゃないかという話もある。

話をBud Powellに戻す。当時の状況、法律のことなど詳細はわからないが、現在も彼の作品は残っていて、私はそのおかげで、1000回以上、クレオパトラの夢を聴くことができている。ありがたいことだ。

一方で、当時、彼が麻薬を使っていることで、彼に近しい人は大変な目にあっていたかもしれないし、彼の作る音楽の世界が麻薬の影響によるものもあるとしたら、それを好意的に評価できるかは、2024年現在においては当時ほどとは言えないかもしれない。発売停止だってなくはない気がする。

勝手なイメージだが、当時の黒人ジャズの文脈の中で、麻薬やお酒というのは必須とまでは言わないが、必要悪のようなポジションにあって現代までそういう解釈で来ていると思う。

一般社会では許されないようなことが、大きな成果を生み出すならまぁ許されるという風潮がある。歌舞伎役者の女遊びは芸の肥やしみたいな話も、今時の感覚で見ると単なるご都合主義にも見えてくる。

私たち(少なくとも私)は、逸脱が芸術の創作物の燃料のように思うところがあって、それを許容しているし、何ならそういうストーリー(破天荒、武勇伝)を好んでたりする(男性だけかもだが)。

しかし、ふと落ち着いて、俯瞰して見ると、別に逸脱しなくても秀逸なものを作り出している芸術家、芸能人はいくらでもいるはずだ。

私の好きなジャズドラマーにアートブレイキーがいる。詳しくは知らないがwikipediaを見る限り、この人もすごい人だと思うが、ひどい逸脱話はない。早くからお酒は飲んでいたようだが。

歌舞伎役者だって、女遊びをせずとも素晴らしい演技をする人はいるはずだ。

つまり、秀逸な作品を作り上げる芸術家(芸能の人)の全体の中で、一体どの程度の人が逸脱しているか、私たちはよく知らない。ただ、話として語り継がれたり、表に出てくるのは、逸脱することにより秀逸を生み出した人の話だ。それだけを聞くと、あたかも、秀逸な作品には逸脱が必要に思えてくる。

先ほどの芸能人の話に戻ると、権力が集中して、裸の王様状態だったという話があるが、この「裸の王様」ストーリーというのも、よく聞く話だ。私が王様ほど権力を得た経験がないので、想像力が届かないのだけど、これはこれで紋切り型にも思える。

権力を得てもこれまで通りの人だっているだろうし、裸の王様のようにみんながなるわけではないだろう。それに、この裸の王様って自分がなりたくてなるというより、周りの家来が作り出すような気もする。

真実はグレーな部分にあり、彼一人だけの問題でもない気がするが、栄枯盛衰、転落していくストーリーを待ち望む人が一定数いるのだとしたら、むしろその気持ちこそ、逸脱したカタルシスだと思う。

*タイトルの写真は今週、食べおいしかったサンドイッチ。

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